がらくたマガジン

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清瀬六郎『夜風』(アトリエそねっと、2016)を読む(復)

清瀬六郎さんが書いた『夜風』(アトリエそねっと、2016)を読んだ。

 

滝頭琉姫(たきがしら るき)という社会人女性が中学時代の同級に招かれて、中学時代に住んでいた故郷を訪れるという話だ。同級生には幸織(さちお)とか結生子(ゆいこ)がおり、琉姫は幸織や結生子といっしょに遊んでいた。三人は海で泳いだこともあるし髪を三つ編みにしてやったり、ルーローファン(台湾の肉そぼろ丼みたいなやつ、すごく描写が多い)を食いに行っていた。現代と中学時代の過去を行き来しながら物語は進む。

 

この話にあまりハイスピードさや刺激的な表現は出てこない。故郷の坂道を散歩しながら歩いたり、一緒に花火大会を見るぐらいだ。途中で海に向かったらクラゲの大群に遭遇してやや大変だったところもあるが、どちらかというと向きはスローテンポだ。なだらかさ加減や力を抜いた会話が魅力的で、寝る前に読んでいた。

 

主人公の瑠姫は幸織と話をしたり幸織の家に世話になりながら、たびたび過去を思い返す。それは楽しかった青春時代でもあり、現代では不在の結生子を想像する旅路でもある。瑠姫の進路は途中で別れてしまい、家も引っ越したので、故郷に帰るのはとても久しぶりだ。そして寂れている。見知った人は幸織しかおらず、結生子はどこかに行ってしまった。彼女の家は「いわし御殿」とか呼ばれてとても豪華だったが、その御殿もなくなった。

 

はしゃいではしゃいで、それでいて起伏もあった過去を思い出しながら、瑠姫は現代の、あまり代わり映えしなくなった故郷を過ごしていく。そのギャップは寂しいものだが、瑠姫は大人だし幸織もいたので、それらを受け入れていく。

 

おそらくそのギャップが効いてくるのだろう。後半からは幸織不在で結生子がやってきて瑠姫と出会い、怒涛の語りが始まっていく。前半で積み重なかった違和感のピースがパチパチはまっていくのだ。故郷の村では過去に大いなる因縁があり、因果関係も当然あった。その因果関係がぶわりと膨らんで幸織と結生子に迫ってくる。

 

人に歴史ありとはよく言ったもので、あれだけかまびすしかった中学生の頃が嘘のように、同級生は変わったり成長していく。成長しているのは瑠姫も同じだが、その辺りの筆致は控えめだ。

 

あとがきでは「女の子同士の友情物語」と記されているが、最終的にはそこに行き着く。また社会人の話ということもあり、仕事あるあるネタも出てくる。例えば「きちんと仕事をするには、ときどき、いや、しばしば、ばたばたしなければならないことがある」(45頁)あたりだ。社会人になるとたいていの人間は変わる。仕事や会社、責任がメチャメチャ重いのでいろいろ変わるからだ。

 

最後に、この本は同人誌として作られている。主にコミティアを中心として販売しているようなので、すぐに手に入れることは難しいかもしれない。

 

同人誌というとコピ本とかマンガとかそういうのを考えるかもしれないが、だいぶカッチリした文芸誌だ。読んでいてだいぶ歯ごたえがあった。ちなみにこの本、同サークルが発行している歴史物シリーズ『荒磯の姫君』に連なっており、この作品で語られている伝説や過去はここに由来している。近い時系列に『月が昇るまでに』もあるので、もし手に入れた人はぜひチェックして欲しい。

 

《終わり》