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鷹見一幸『再就職先は宇宙海賊』――意地、意地、意地、ロマン! (復)

鷹見一幸『再就職先は宇宙海賊』ハヤカワ文庫、2018を読んだ。次がありそうな書き方だが、もしかしたらこれで完結かもしれない。

 

再就職先は宇宙海賊 (ハヤカワ文庫JA)

再就職先は宇宙海賊 (ハヤカワ文庫JA)

 

 

 SFには前提がある。スチームパンクならかっこいい蒸気機関車とか飛行船が出てくるし、ニンジャスレイヤーの場合は2000年問題UNIXがばくはつし、そもそも平安時代はニンジャに支配されていたという前提だ。このSFの前提は、月である。ざっくりいうと、スーパーテクノロジーを持つ異星人らが月にゴミを捨てていったのだが、それを発見した地球人がゴミからスーパーテクノロジーを再現し、宇宙探査に乗り出したのである。以降、ゴミでは名前が悪いので帝国の遺産と呼ぼう。人類はこうして帝国の遺産――スーパーテクノロジーを手に入れたのだが、生産できるほど技術革新ができてないので、生産できるテクノロジーなり代替品なりを探さなければならない。ということで、宇宙探査だ。

 

 メインキャラクターは男三人である。ヒロユキと、会社の同僚の佐々木と、同じく会社の同僚でイギリス人のウォルター。ウォルターにはアズサさんという恋人がいるが、どういう人なのかちょっと気になる。後半で女性も追加されるが、彼女も他に負けないくらい濃い。

 

 三人が働くのは地球から離れた小惑星帯である。異星人が残した不用品で宇宙に出発した人類は、他の帝国の遺産を探すためにゴールドラッシュに乗り出した。手近な目標は小惑星帯だ。ゴールドラッシュといえばかっこいいが、当たれば億万長者だが、外れれば一文無しとか宇宙の塵になってしまうギャンブルである。山賊みたいな敵もいるし、通信や生活も地球に比べてめんどくさい。少女雑誌も電子端末にダウンロードしないと持ち込めない。

 

 こうして男三人が会社の仕事として小惑星帯に宝探しをしに来たわけだが、ここで会社が倒産した。宇宙船の燃料はなく、食料を買おうにも経理とかポケットマネーもばくはつしたのでほぼホームレスである。しかしヒロユキが苦境に陥っている最中、佐々木とウォルターは発見した。帝国の遺産である。

 

 ここから一発逆転を狙った男たちの生存競争が始まる……となると活劇なのだが、現場の雰囲気はもう少しだらっとしている。男三人がああだこうだ議論しながら試行錯誤していくが、SFならではの用語も身の丈にあったところでボチボチ出してくれるので読みやすい。ヒロユキは三十五歳で彼女はいたことがなかったし、ウォルターはとにかくよく喋る。前職コメディアンだったの? っていうくらい喋りがうまい。佐々木は目端が利いて機械設計に通じているが、汎用端末に萌え声を仕込むなど、油断がない。

 

 そしてジャケットにも出ているように、女海賊である。後半からヒロユキたちに合流してくる彼女の正体は……モジョコさんである。都市伝説みたいな名前だが、おもしろいキャラクター造形なので詳しくは本書を読んで欲しい。

 

 だが、最後に一番奮うのはヒロユキなのだ。なんでかというと、彼には夢があった。ロマンもあった。夢の中身はマニアックであり普通の会社生活をしているので縁はなかった。しかし彼の心には着火を待っている代物があり、それと物語とがぶつかったのである。夢との接点がないまま生活をしていたヒロユキが、内心で意地を吐露し、ぶちまけるシーンは必見。冴えなくてボサっとしていた男に火が灯り、埋もれていた意地が立ち上がる。タイトルにも『再就職先は宇宙海賊』とあるように、いかにして彼が宇宙海賊になっていくのか、だらっとしながらも良い方向に振り切れていくくだりが面白い。やはりこの小説、センス・オブ・ワンダーもあるが、ワンダーの上で人が悩んだり喜んだりする姿が楽しいのだ。

 

《終わり》