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渡辺浩弐『令和元年のゲーム・キッズ』――寿命制限時代の人間。それからゲーム (復)

渡辺浩弐『令和元年のゲーム・キッズ』星海社FICTIONS、2019を読んだ。

 

 

令和元年のゲーム・キッズ (星海社FICTIONS)

令和元年のゲーム・キッズ (星海社FICTIONS)

  • 作者:渡辺 浩弐
  • 発売日: 2019/07/16
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

いくつかの前提の上に成り立ったショートショートだ。前提は以下の通り。

 

・政府によって市民の寿命は五十歳に制限されている。五十歳になれば法定寿命を過ぎたとして、市民は処理施設に連れて行かれて安楽死させられる。

 

・反対に、五十歳になるまでは人権、生活保障が約束されている。

 

・時代設定は、ソシャゲー、ガチャ、スマートフォン、ドローンが存在する、いまから(たぶん)百年後ぐらいの世界である。

 

収められている作品は三十一作のショートショート。一作は6~8ページほどなので、読みやすい。読みやすい上で露悪的なほど残酷な作りになっている。

 

ポップなカバーとは裏腹に、恐ろしく簡単に人が死ぬ。『五十歳を過ぎたら安楽死』という条件の元で人々が苦しみ、あがく。エンディングの理不尽さはバッドエンドを思わすほどだ。人間、おかしくなろうと思えばどこまでもおかしくなる。

 

気に入った作品は『ふしょうの息子』、『完全なるアイドル』、『不完全なアイドル』、『人生ガチャ』、『自殺はやめよう』、『学校のヴァンパイア』、『自分ゲーム』だ。幾つか寸評を挙げてみたい。

 

 

『ふしょうの息子』

引きこもりの息子、部屋、そして母親……これだけしか出ていないのに、話の内容に強い説得力がある。おそらく息子の視野の狭さと傲慢さによってこの状況が成り立っているのだろう。読んでいて「うわっ……」と言ってしまうほど強い話で、最後が予測できても鳥肌が立つ。ここまで書き抜く作者の技術力がすごい。

 

『自殺はやめよう』

ドキュメンタリー形式である。自殺したい三人の男女がいるが、それぞれの辿った自殺方法や、生命をまさに物質そのままとして扱う様に、ある種の神聖さとも空虚さともつかないものがにじみ出てくる。設定をうまく使った例でもある。自殺はやめよう……

 

『自分ゲーム』

発想の勝利である。ヘッドマウントディスプレイ+ドローンというのは考えつかなかった。タイトルが『ゲーム・キッズ』なのでもちろんゲームに関連した出来事が起きるが、発展の仕方が面白い。フィクションの悪影響だ。

 

『誕生プレゼント』

とにかく前半と後半の落差がすごい。バーチャル設定の広げ方が面白いが、それだけでないパンチを食らわされてしまった。このまま現実世界には入ってこれないだろうが、いくつかを修正すればやがて実現するかもしれない。

 

『人生ガチャ』

五十歳まで生きられる社会の、五十歳で終わる人生の悲惨さがにじみ出る。医者と元野球選手の話だが、高校までは同じ道だった友人二人は、違う道を歩き始めてから、ずいぶん異なる人生を進むことになった。ここに詳らかになるのは、時間を強制的に区切った人生のいびつさと、それに応じきった人間の奥底だ。

 

他にもまだまだある。老人の終末を描いた『献体』、VRアイドルが活躍する『完全なるアイドル』、SNSの面倒臭さを消去してくれる『人間関係リセットスイッチ』もあり、どれも読んでいて面白かった。

 

また、全作品には頭書にQRコードが設置してある。コードを通してYoutubeから作品の執筆風景を見ることができる。私は『人生ガチャ』を見たが、作者が思いつきを基に執筆していくのを見るのはなかなか刺激的だった。本を持っていない方でも、Youtubeで『渡辺浩弐のノベライブ』と検索してくれれば観られるので、ネタバレにはちょっと注意しながら視聴してほしい。

 

 

ちなみにこの作品、前まではamazonで見たら絶版だったが、いま見たら在庫ありになっていた。こんなに時代を先取りしてるので、電子版を出してくれるのが楽しみ。DLC特典として、ボツネタが読めたり、後日談が追加される……とかだと、なおのこと嬉しい。

 

《終わり》