がらくたマガジン

小説を書いたり、読んだり、勉強したりするブログです。執筆者紹介  (復)=復路鵜執筆  (K)=春日 姫宮執筆

祝ダガー賞受賞(20250711)(復)

 王谷晶さん、ダガー賞受賞おめでとうございます!!!11!

 

web.kawade.co.jp

 

 私は『ババヤガの夜』は『文藝』の雑誌で拝読しました。「エンタメっぽくもあり純文っぽくもある良い作品があるな」という感想でしたが、四年の時を経てこうして受賞しているのですから嬉しいことです! あと生卵を飯にぶち込んでかっ食らうとか、中華料理屋でメチャクチャ大盛りを頼むとかのご飯の描写がおいしそう。

 

 また私は『文學界』で王谷晶さんが連載されているエッセイ『鑑賞する動物』が好きでよく読んでいます。『ジョン・ウィック:コンセクエンス』とか『ザ・キラー』の批評を面白く読んでいるのですが、なぜなら私はこういう映画を見ても「ああ面白かったね」で終わるタイプの人間だからです。

 

 王谷さんのように映画の勘所を解説したり、アクション殺陣の指導について語れる人がいないので、こういう評論を出してくれてありがたいと思います。あと、配信サイトにない映画の情報も得られるので、純粋にその点も勉強になります。

 

youtu.be

 

 

youtu.be

 

 

 

 

 

 

 エレグ来るって本当ですか!!!!??????

 

 

 

 

 

読書の日記(20250704)(復)

 7月! 我々は暑くて溶けていった……後にはアイスクリームとか本の残滓とかが残り、なんかいろいろなことがあり……春と梅雨は消えていきました……

 

 遅まきながらこの本を読みました。明治時代の作品の文学論で、トンチキ作品をクールな地の文でしばいていく批評本でもあり、大変おもしろかったです! 簡単に紹介します。

 

『「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本』

 

 

www.kashiwashobo.co.jp

 

 

 本の中身を見てみると「弥次喜多宇宙旅行に行く『宗教世界膝栗毛』遅刻で日露戦争に参加できなくなる『露西亜がこわいか』主人公が焼酎と蟹を食べすぎて死ぬ『南京松』」……と、ちょっと見ただけでお腹いっぱいになる内容です。

 

 ゲラゲラ笑いながら読んでいたのですが、特に好みだったのは第6章の「〈最初期娯楽小説〉の野望」でした。猿を殴り殺していく僧侶「拳骨和尚がやってきた」、インドで強盗団を殴打してパリで伯爵夫婦を惨殺する「ハイカラを討伐しよう」、海賊組織を壊滅させる「アフリカ人と帰国しよう」などがあります。凄すぎる本でした……

 

 

 英語版ウマ娘に脳破壊された哀れな外人たち……「うまぴょい伝説」が「Umapyoi Legend」とそのままの英訳で笑いました。

 

《終わり》

 

活かすことについて(20250520)(復)

 五月! それは五月病の季節でありなんかゴールデンウィークもあり……というか私のところは途切れ途切れの休みでした。あまりにも時間の可処分所得が少ない! 小説をうまく読めないぜ! 今年もあと半年しかない!?

 

 

www.youtube.com

 

   タヌキたちがタフだしヤチヨさんが強すぎるアニメ

 

www.youtube.com

 

 「あっちの方が強そうじゃない?」からここまで発展

 

カクヨムに投稿

 
 ツイッターの逆噴射界隈で盛り上がっていたので、先日はカクヨムで行われた『第二回暴力小説大賞』(すごい名前だ……)に投稿しました。最近はあまり小説コンペに投稿していないため、「あれテーマなんだっけ、文字制限いくらだったかな」と悩みながら書きました。そろそろ結果発表されそうですよ!


 いつもは長編をああでもないこうでもないといじくってばかりなので、こうして短編を投稿できてけっこうウキウキしています。こちらのリンクからどうぞ。お題は『二の舞』です。かなり良いお題です!

 私的解題として下地としての「暴力」を幾つかのポイントに仕込みました。

 1:警察官から青柳への指摘(これを彼女は暴力と受け取りました)。
 2:実際に青柳がイヤホンチャリを運転することで周囲にかける迷惑(暴力)。
 3:暴徒たちによる単純な暴力。
 4:青柳が物理的に振るう暴力(自転車で突っ込む行為)。
 5:警察官が青柳に再び名前を問いかけるところ。間接的ではあるんですが、最後の最後になっても警察官は青柳の名前を覚えておらず、つまるところ仕事の範疇として姓名を聞いたものの、個人的には全く覚えていなかったことが伺えます。青柳にとっては相当堪えるのではないかなと思いました。

 ちなみにコンテストの存在を知ったのが締切五日前だったので、二日で本文を書いて二日寝かせて、最後の一日でアップロードした計算になります。ギャーとか叫びながら書いてました。

野尻抱介『南極点のピアピア動画』

野尻抱介『南極点のピアピア動画』ハヤカワ文庫、2012 

 アピア動画を読んでいます。再読ですが、かなり面白い。
 内容はピアピア動画(ニk……みたいな動画サイトです)と宇宙開発にまつわる短編集。
 フラれた男が女性のためにジェットを作って飛ばす話だったり、潜水艦を借り切り小隅レイ初n……みたいなキャラです)クジラにアプローチする話だったりと、文系の私には物珍しい小説です。全ての根幹をなしているのはピアピア動画と小隅レイです。ピアピア動画、国民的なサイトだし全技術者がなんとなくここにリンクしてるみたいな「なんかここに行けば面白いことがある」というハブ空港みたいな役割をしていて面白い。いまならゆっくりとか出してもいいんじゃないか?
 私も南極作品を書き始めていたので、それにかこつけて勉強のためにもう一回読むか! というのもアタックの一つでした。


 理系や物理の専門用語が豊富で勉強になります。「IP電話」「ユーザー生成コンテンツ・サービス」「ブートストラップ」「XLコード」「コンピュータ数値制御工作機械」「目標運動解析システム(TMA」「大気スクープ」など、聞いたことがあるものの具体的には説明できない、あるいはそもそも知らない物理学や工学技術を教えてくれます。
 最近は調べ物するときにChatGPTの音声モードを用いてるんですが、今回は本を読みながら「XLコードって何ですか?」とか「ブートストラップってパソコンに使う奴ですか? 電気自動車に応用できますか?」「IP電話のIPってどういう意味でしたっけ?」とAIに訊いてました。
 読書と会話だと使う脳みそのパーツが異なるようで、読書には読書の味があるのですが、会話の場合は相手がAIでも話しているうちに「あれはこれに繋がるかな」と別なシナプスが活性化されるのを感じます!
 AI検索も百パーセントの解答ではないかもしれませんが、そもそも基礎知識を知らないレベルで知らない用語が多いので、とっかかりとしてかなり頼りになります。ちなみにそんな私でもサクサク読めるし、あんまり用語を知らなくても楽しくいけるので、やはりこの本面白いです!

司馬遼太郎竜馬がゆく

司馬遼太郎竜馬がゆく(一)』文春文庫、1998

 二巻もついでに。


 
 というわけで司馬です。もともと司馬遼太郎の小説について、「これって史料的に正しいの? エンタメに寄せるために史料にないことも書いてるんじゃないの?」という疑問の声を聞いていたので、「正しいのかどうかあんまり判断できないし、混乱するかもしれないからやめとこ……」と思っていましたが、歴史小説を書いていたので、ここは思い切って読むことにしました。先達の胸を借りてなんか文章の神髄を会得してしまおうぜ! というアッパーな感じです。

 この小説では舞台が新渡県であり、だいたい大正時代ということで「そこまでデバフかからないし大丈夫だろ~」と司馬を安易に読んでいます。それに司馬遼太郎の作品に黒河シズみたいなわがままボディな少女は出てこないだろう……

 閑話休題
竜馬がゆく』作品としてはやはり面白い。中身は「坂本竜馬が生まれて藩士として活躍するし江戸に黒船が来て周りの人間関係も賑やかになりやがて脱藩して更に活躍する」みたいな、だいたいあらすじわかるな……という大河小説となっています。転生小説の源流
「竜馬って幼少期にはあほとか言われてたけどこんなに凄いんだぜ!」が展開されていきます。竜馬知識はFGOや漫画ぐらいしかなかったので、「なるほど巷にある竜馬像はここから派生したのか。竜馬は子どものころに寝小便垂れてたのか」と勉強になります。たまに渋沢栄一とかとニアミスしており面白い。
 特に面白いのが、竜馬が刀を抜くシーン。新選組の連中とやり合う寸前に試し切りみたいな感じで抜いています。小説では竜馬は北辰一刀流の免許皆伝だったわけですが、そんな人間が夕暮れの土手で刀を抜くものだから、かなりの姿になる。それを見た敵が「げっ」とおののいているわけですが、文章が面白いので絵になります。

「ほう、陸奥君はいい刀をもっている」
 抜いて、夕日にかざした。
 そうした気配を下でも察して、二、三人が草の中を這い上がって、土手へ眼だけを出した。
(げっ)
 と、驚いたに違いない。
 土手の上では、蓬髪、長身の武士が、よれよれの袴をへその下でむすび、太刀を天にかざしてよろこんでいるのである。

竜馬がゆく(四)』32頁



 途中で竜馬は京都に行くわけですが、新選組も多数登場します。土方歳三藤堂平助近藤勇……どこかで名前を聞いた人物たちがゴロゴロ出るぜ!
 一巻、竜馬の父が死に、竹藪の中で竜馬が暴れ狂うように泣き叫ぶシーンや、黒船を見に行こうとするが、そこへ黒船が突進してきてざわめくシーン、女を抱きそうになるが大地震に直面して、(おれは誤った。天が、おれに向かって叫んでいる)と自戒するシーンなども絵になります。最近は『新幹線大爆破』がリメイクされて面白かったので、こうした映像化をされると期待が持てます!

                  異様に仕事のプロ意識が高い草彅剛


 今回は以上です!

《終わり》

 

 

 

逆噴射完・個人とシステム(20250213)

逆噴射完


 あけましておめでとうございます。今年は年が変わった瞬間から冠婚葬祭冠婚葬祭冠婚葬祭……になってしまい、完全に書評が後ろにズレこみました。

 逆噴射小説大賞2024、一次選考と二次選考の結果が出ました。こちらでは私は載っています!

 こちらは最終選考です。私は……落選です! つまり二次選考を通過したところで終了しました。まだまだ文章力とか根本的な下地(ジャンル選定)で及ばないところがあるので、精進します。

 大賞受賞作は電楽サロンさんの『Boooom!!!!』でした。おめでとうございます!
 また奨励賞としては、ハンブンバッチさん、獅子吼れおさん、zealotofBWさんが受賞されています。こちらも、おめでとうございます!!
 私の逆噴射は完結したので(まだ作品が残っていますが)、今年もドコドコ書いていきます!
 そして、一月中に最終コメンタリーの記事も発表される予定です。どんな内容の記事が出てくるか楽しみです(二月になりましたが、そういうこともある)。
 

 

 ひとまず今日は書評です。

BEATLESS

長谷敏司BEATLESS(上・下)』角川文庫、2018

 大災害である〈ハザード〉後の日本。100年後の未来。日本は大きく変化した。自衛隊は軍隊へと変わり、人型アンドロイドhIEが主流となった。人類の知能を超えた《人類未到産物》である〈レッドボックス〉が生まれはじめた。ある夜、高性能hIEである〈レイシア〉級が七体脱走する。少年アラトは外を歩いている時、〈レイシア〉のネームド機体であるレイシアに出会う。その機体は少女の姿をしていた。

あらすじ

 大作です。数年前に一度読みましたが、今回は再読しました。
 遠藤アラトをメインの主人公として、〈レイシア〉級の七体のアンドロイド、周囲の人間たちによる群像劇が繰り広げられます。人間ズはアラト、それぞれ友達のリョウケンゴ、そして彼らの家族など。〈レイシア〉級のアンドロイドたちは時に暗躍し、時に戦い、時に議論を繰り広げます。
 三人の少年たちは友達ですが、人間関係の入り組み方が面白い。アラトがどこにでもいる少年という立ち位置だとすれば、リョウは大企業であるミームフレーム社の御曹司であり、自らも会社の人間として職務を担います。あり体に言えば勝ち組で、hIEによる利益を得ています。
 対するケンゴは、吾妻橋あずまばしで定食屋を営んでいる日本人とロシア人の息子であり、両親はhIEを嫌っています。ケンゴの部屋は狭く、ネット回線を引くのも苦労しています。ケンゴは社会構造として恵まれないものの側に立っており、ボランティアとしてhIEを迫害する《抗体ネットワーク》に属しています。三者を描くことによって社会の仕組みを垣間見られます。
 また上下二冊の分量なので、続いていく物語に従ってキャラクターたちの性格も変化していきます。ケンゴはもとより、最初は軽そうでいけすかない感じだったリョウも、アラトとの議論や数々の修羅場をくぐり抜けることで、性格もタフになっていきます。
 とはいえ主人公はアラトなので、アラトは「人間と機械との繋がり」に思考の方向性を広げていき、反対にリョウは「人間が機械をコントロールすること」を中心に考えます。
 作品で登場する「アナログハック」の概念が興味深い。「ロボットであるのにデータを駆使して空気をうまく読んで人間っぽく振る舞い、それによって人間から愛着を引き出す」という技術です。
 ChatGPTやCotomo、LOVOTのような技術が実践しているテクニックを今作では惜しみなく使っています。前にChatGPTを擬人化させて楽しむやり方があったと思いますが、この作品ではhIE側からそれを働きかけてくるし、その原理が「人間が良いと思っていることをする」というので、無意識に働きかけるアクションであり、非常に信頼を得やすい。
 愛情を持たせるという意味では、「ラポール」の概念が近いかも。


 文章はロジックがはっきりしており、ラブコメとハードSFの棲み分けが明白です。平山夢明の『ダイナー』では、ゴアに人間が死ぬシーンと「この辺は半分ギャグだな」というシーンが計算づくで配分されており、かなり読みやすいのですが、『BEATLESS』においても同様の読みやすさがあります。


~~~~~ここからラブコメ空間~~~~~~~

 PMCの戦闘やテロリストによるビル襲撃、hIEパンデミックなどのシビアな状況が出現する一方、アラトの妹であるユカが出てくると、途端にシチュが甘くなる。「朝から発情しすぎー」「ユカちゃんは、ビッチかわいいよ」「お兄ちゃんならチョロいからデレッデレですー」の台詞が(マジで)飛び交う。ASMRかな? ってくらい読むのが楽になるので、シリアスさに慣れていた読者にはこのドロドロさがやみつきになる。
 そしてリョウの妹である紫織しおり徳川莉々に似ている)はアラトに惚れてますし、ケンゴの妹のオーリガ(日本人とロシア人のハーフ)はなんか花海佑芽葛城リーリヤをミックスした感じだし、レイシアもアンドロイドなのに風呂に誘ったり甘えさせて来たりして執拗にアラトと恋愛を試みるので、妹ズが登場すると途端にシチュがギャルゲーになる。実際に中国ではBEATLESSのソシャゲが制作されています。

 また、〈レイシア〉級hIEとして、紅霞こうかマリアージュメトーデスノウドロップなどが出てきますが、別のレイシア級とは戦うのに大抵はアラトに対応が甘いし、紅霞も関係のあるケンゴに対して「おもしれー男」扱いしているので、もうみんな全員ドルフロのキャラクターで再生されます。俺はエクシリウム! されてしまったのか!? クルカイはいつ実装されるんですか!!!!????? ミカ!!!!!!!!!

~~~~~ここまでラブコメ空間~~~~~~~

 終盤、リョウとスーパーコンピューターである《ヒギンス》との対話が面白い。袋小路に追い詰められたリョウが一発逆転の手段として《ヒギンス》との対話を試みるのですが、様々なロジックを用いて人間より優位に立とうとする《ヒギンス》の議論が、目まぐるしく優位が入れ替わる主人と奴隷の議論でもあり、スリルがあります。
 機械をコントロールするための対話に留まらず、会社であるミームフレーム、その外側にある世界の盤面を計算しながら議論しなければならないプレッシャー。
 そしてまた終盤、レイシアが人間の魂について話すところがメチャクチャテンションが上がりました。こういう、宇宙人や機械といった第三者的な存在が、人間の心や魂について明白にできないながらも自分の言葉で語ろうとするくだりが大好物なんですよ!
 舞台は東京がメインですが、名古屋地方にリニア新幹線で行くくだりも良い。社会レベルを推測する上で勉強になります。エンタテイメントとハードSFの二種類のジャンルを楽しめる良い本でした。
 更にハードSFというか、介護や義足など、人間の尊厳に挑戦していく本を求める方はこちらもどうぞ。第54回星雲賞日本長編部門を受賞しています。

 少年向けや宇宙バトルが好みの方はこちらを。宇宙での擬似戦争がテーマとなっており、少年がロボットに乗って戦います!

 作者の方が制作した、BEATLESSなどの世界観をフリー素材にしたサイトです。希望する人は、この世界観と設定を用いて作品を作ることができます。

マイ・リトル・ヒーロー

冲方丁『マイ・リトル・ヒーロー』文藝春秋、2023

 事故で重体に陥った息子がゲームの世界に閉じ込められた。救う方法は世界一位になること。父親は慣れないゲーム機片手に、息子と協力してトップチームを目指す。
 題材がゲームなのですが、最終決戦の地としてシンガポールで開催されるトップランカーたちによるゲーム大会があります。
 折しも私も大会を扱った小説を書いているので、資料としても良さそうだと思って購入しました。

 主人公が参加するプレイヤー側なので、資料としてブルズアイ! というわけではないのですが、ちょっと大会運営の裏側を見られて勉強になりました。
 内容です。
 ゲーム物自体はたまに見るんですが、今作のテーマが「一般人が初心者の状態からゲームを始めて、チームを組んでeスポーツに参加して、あまつさえトッププレイヤーを目指していく」という題材に度肝を抜かれます。なかなか見ません!
 プレイする作品は『ゲート・オブ・レジェンズ』という、フォートナイトPUBGAPEXみたいなゲームですが、ゲーム内世界に対して非常に解像度が高く、アクション性も強い(ただ私はゲームやってないので、アイテムやマップが実在のものとは違うかも)。ゲーム内の戦術もよく練られており、「これなら確かに初心者でもそれなりの域に達しそうだな」と思わせるものがあります。
 プレイするのは一般人ですが、ゲーム内で強盗ごっこをしたり、ハードなドライビングテクニックを駆使したりと、エンタメとして映える。
 主人公の暢光は金持ちのボンボンだったものの、事業の失敗のせいでいまは出前を運ぶアルバイト生活。序盤も詐欺にあって大金を失った場面から始まります。暢光はゲームの世界で猛特訓を繰り返しつつ、現実世界では妻や義母と議論したり、息子である凛一郎が意識不明なので、苦境に陥っています。
 家族ドラマも良いですが、特筆すべきはゲーム性の高さ。
 フォートナイトPUBGみたいな世界観のゲームですが、百人単位でのバトルロイヤルが森・街・山などで展開され、マップ内でお互いにアイテムを奪い合いながらバトルをするので、必然的に市街戦から山岳戦まで目白押しとなります。プレイヤーがモタモタしているとミスト(プレイヤーたちを追い込むための霧)に呑み込まれてゲームオーバーになるため、プレイもサクサクしたものとなります。

 この辺はまさにゲームを題材にした作品ならではであり、協力しての殴り合いや撃ち合いに華がある。それでいて家族の絆を前面に押し出した作品なので、ゴア表現は一切なく、ティーンが読んでも十分に楽しめます。
 題材も「ゲームをプレイする一般人たち」に焦点が当てられているので、主人公の他に息子、妻、娘、義母、弁護士の先生、医者、更に知り合い……などと、様々な人達とマルチプレイを行っていきます。
 そんな人たちはもちろん初心者ですが、それなりのプレイヤーにさせるために、練習プランを練ったりトレーニングマップで特訓を重ねたりと、eスポーツならではの練習風景も出てきます。戦争とか紛争に行くわけではなく、あくまでeスポーツとしてプレイするわけなので、ゲーム内では強めにアクションさせて、エンタテイメントに仕上げることに成功しています。おそらく現実世界で同じことをしようとしたら、かなりグダグダになる。

同じ人物が何人も出るのにチャキチャキ動かすのに成功している傑作


 主人公たちは世界一位になるためにチームで猛特訓を繰り返すのですが、VALORANTスプラトゥーンオーバーウォッチのような多人数チームプレイを行うため、細密な計画を立てていきます。マリオット盲点を使った練習法や、プレイ前にラジオ体操で体を慣らしましょう、という練習風景も。

https://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/698318.html

 今回は出てこなかったものの、なんか思い出した、PCに取り付けることにより、PROのプレイと自分のプレイを比較できるアイトラッキングセンサーです。2015年に発売されてますが、いまどうなっているのかしら。 
 クライマックスの一騎打ちはかなり魅せてくれます。『マルドゥック・アノニマス』や『アクティベイター』を書かれた作者だけあり、戦闘の筆致が冴えわたります。
 もともとは雑誌で『マイ・リトル・ジェダイ』というタイトルで連載されていました。息子の凛一郎の光り輝く様子や、師匠兼ラスボス枠のマシューがゲーム内のアバターで白い服を着ているので、自然とヨーダと重なってきて「エモい……!」と思いました。
 Twitchを思い浮かべながら読むと、視聴者になったようで臨場感が倍増します。

大統領失踪

ビル・クリントン、ジェイムズ・パタースン『大統領失踪』早川書房、2018

 ダンカン大統領は自分がホワイトハウスから消える決断を下した。自身の健康問題、弾劾決議案、サウジアラビアを含む各国の緊張、テロ組織。暗殺者がホワイトハウス周辺にやってきつつある中、大統領は失踪した。
 クリントン元大統領が執筆した小説であり、ホワイトハウスにはかなりの情報量があります。緊張感のある官僚同士のやりとりや弾劾案への対策、常に揺れ動く国家たち。ディテールがとにかく強く、一般人ではとても立ち入れないホワイトハウスの内幕をよく知っている印象。
 とはいえ、民主党共和党などの政治に関する専門知識はほとんど要求されません。あくまでも映画のようにストーリーが進んでいくし、政党に関しては「我が党」「対立党」ぐらいしか出てこない。なので現実では大統領が交代していも読めます。
 ちなみに日本の扱いはというと、「日本海で演習を行ったら北朝鮮弾道ミサイルを発射した」ぐらいしか出てこないので、ちょっと残念。しかし日本の首相とチャキチャキ首脳会談したり、首相がやってきて「我が国も協力します。この秘書をニンジャとして用いてください」とか言い切ったらジャンルが変わるかもしれない……
 終盤に大統領が演説するくだりがありますが、こちらはまさにアメリカが理想とする姿をイメージしました。保守的、あるいは革新的なアメリカ人でも、おおよそ理想としているイメージを描くことに成功してるのでは、という文章。とはいえ物語の締めくくりが演説というのは、大統領が主役の小説ならでは。
 途中でバディ役というか、マリオ&ルイージの間柄としてイスラエルの首相(女性です)が登場するのですが、彼女は「あなたならできるわ!」と大統領を大変フォローしており、ちょっと盛りすぎな印象があるかも。
 また大統領も人間であるせいで、途中で心が折れます。テロ集団に先を越されたことに気づいてがっくり来るシーンがお気に入り。結局大統領はリカバリーできるのですが……
 ひたすらに大統領の仕事は重大で、それに付随する個人の責任も重い……という話なのですが、やはりダンカンにはカリスマ性もあるので、部下が自然とついてくる。そういう点では理想形としてのリーダーを描いた小説かもしれません。

 良いエンタメ小説でした。

 ちなみに私が書いた似た感じの小説として、『トライアド・アサシン』を書きました。人間を三体のドローンに分割して敵地に送り込み、ステルスアクションしていく作品です。

 今回はhIE、ゲーム、アメリカと、大きなシステムに向き合う人々の話をメインに取り上げました。SFから現代小説、海外小説と続きましたが、やはり国境が違っても人々はそれほど変わらない。
 次回からは逆噴射ピックアップも仕上げていきたいです。

《終わり》

逆噴射ピックアップ第三回(20241205)(復)

 

 いつもお世話になっております、復路鵜です。こちらのブログではお久しぶりとなります。ちょっとnoteからの転載です。そして12月です。カラダニキヲツケテネ!

  現在は選考期間中です。次は二次選考までの結果が出る予定。座して待ちます。
  とはいえ良作が多いので、これからピックアップしていきます。
  前回のピックアップはこちらです。

  私が提出した作品はこちらです。

『木々は枝より~』はモリモリ書いているのですが、プロットよりも遥かに枚数が増えていくし、キャラクターたちもどんどん違う話を始めるので、「おいおいこいつは大丈夫なのかい!?」とツッコんでしまいました。
 それでは始めます。

1.墨黒屋敷の夜、からくり骨人形の夢

 火付盗賊改が拠点に戻り、火事で焼け落ちた長屋の話をしていく怪談。しかし、南蛮人が住むといわれる「黒黒屋敷」はいつまで経っても記憶から離れない。南蛮人は屋敷にて、盗賊改を殺人に誘う。
 なるほど新しい! となりました。江戸時代×ゴシック・ホラーという掛け算は見たことがなくて新鮮です。屋敷ですが、誰もが見られる場所にこつ然とそびえ立っている辺り、やはり怪奇かも。
 個人的には『BloodBorne』のゲーム(ゴシックな都を舞台に戦いを繰り広げるアクションゲーム)を思い出しました。雰囲気が似ているかもしれません。
 文体はどちらかというと、坂口安吾江戸川乱歩を思い起こします。謎のカンデラを持つ老人……天井から吊り下がる猿……無慈悲に鳴くインコ……そういった、南蛮由来の怪奇とかも今後出るかもしれません。楽しみ。

2.湿地帯から街まで

 読み口が非常に面白いので、スラスラと読むことができた作品です。三島由紀夫の『仮面の告白』は浅学ながら未読なのですが、これは面白そうです。
 逆噴射では800字制限という枠組みがあるので、長々しい描写は嫌われる傾向がありますが、こちらはあえてショットをロングに組み立てることで、作品世界を作っていっている印象があります。
 作品の筋はシンプルで、湿地から生まれたという女の子が成長して、どんどん湿地の絵をプラスアルファして付け加えていくというのですが、これから忌々しい感じになるのか、あるいは別な方向で発展するのか気になります。
 読んでいてなぜか『ハムレット』におけるオフィーリアの入水を思い出しますが、どこかで関係してくると嬉しい。

3.麒麟の首

「いったいどうなっているんだ!」と思わず声に出してしまった作品。文章全体にナンセンスさが溢れているのですが、ナンセンスを取り巻いて更に迫力があり、惹きつけられます。
 現実世界とはかけ離れた世界の話ですが、だからこそ「麒麟の首」という、フィクションにフィクションを重ね塗りしたような抽象的な存在に現実味が宿り、誰かと語りあいたくなる作品です。
 あらすじ……というより、ひたすら描写の強さでピックアップしてしまった作品です。一体ここからどうなるんだ……!?

4.砂脈

 ヘッダー画像が強すぎるというか、これで劇伴音楽がついていたら完全にホラー映画、ホラーASMRでした。
「女」の絶妙な気持ち悪さというか、生理的な嫌悪感を刺激してくるところで、作者は読者のツボを心得ていると思います。「これからどんどん悪いことが起こりますよ!」と文中でも示唆されているようで、鳥肌が立ちます!

5.盆栽コンテストバイオテクノロジー部門

 我々はまだ盆栽についてあまり知らないことがわかる作品。方向性こそトンチキなものの、文章は真面目な筆致なので読みやすく、面白みが伝わる作品です。でも空を飛ぶイチョウってなに!?
 植物におけるバイオテクノロジーは目覚ましい発展を遂げており、ビオランテとかバイオハザードのプラント42みたいなインパクトのあるキャラクターもいたので、今後そういう存在が出てくるかもしれないな……と、納得感を感じられます。でも主人公まで植物とは予想外でしたよ!??
 真柏(シンパク)の花言葉は「あなたを守ります」らしいですが、今後伏線として作用してくるかどうか気になるところです。
 前に取り上げた『アインシュタイン・ベア』においては動物がバイオ的になりましたが、こちらでは植物が動き回っています。
 ポケモンの例えを使うと、ナゾノクサウツボットは目と鼻がついてうろうろしていますが、実際に視覚や聴覚をどう処理しているか好奇心が刺激されるところです。
 今年はバイオ関係に名作が多いです。
 絶妙に良いところで区切ってあり、続きが気になる作品です!

 

6.泥とプラチナ

 犯罪小説です。二行目から「顔に龍を彫った」半グレが歩いてくるとあり、この時点で読者は、半グレは尋常ではないし、それを相手取るユキオも尋常ではないことを認識します。
 作品は映像的であるものの、ところどころ用いられるる、自慢ドヤ半竹ハンチクといった用語が劇画を彷彿とさせる、あるいはヤクザ小説を思わせます。
 ちなみに半竹で検索したところ、東京の方言で「中途半端。何をやらしてもはんちくだねー」と出てきました。なるほど!
 地の文に無駄がなく、キャラクターの性格をズバリと現しており、強みがあります。疵のない作品です。文章にクセがないため読みやすく、身体に入っていきやすい。
 また、800字という制限の中でどんでん返しがあるのが面白い。普通はどんでん返しとなると「ああショートショートみたいなもんだな」と思いがちですが、この作品においては、確かに次に続く一歩でありつつも、物語の反転を成り立たせているのが良いところ。
 作品に強い存在感があり、タイトルの対比も伏線に感じられて、総合得点が高いです!

7.夜話

 逆噴射が主にエンタメ系の作品が多いかと思いきや、こちらはどちらかというと純文学に寄った作品。
 作品は老人の独白から始まります。老人は「きみの祖父」について語り始めます。内容が面白く引き込まれます。
 老人の独白は、次第に「きみの祖父」の話から老人の話へと入れ替わっていく。混在しながら人物が混ざり合い、どこからかやってきた人々が群像劇のように絡み合いながら展開されていく。登場人物は、「老人」「きみ」「きみの父親」「きみの祖父」「彼の祖母(この場合は老人の祖母ということか?)」と、わりかし多く、それでいて誰もが個性を持たないまま通り過ぎる。
 ある一族について語るガルシア・マルケスプルーストの小説を予感しました。動きは少ない、しかし、純粋に語りだけで読者を引き込む能力があります。かなり好みの作品です。『文學界』辺りで中編ぐらいで掲載してほしいし三島由紀夫賞とか受賞してほしい。

 ということでピックアップしました。noteをお読みの皆様が作品へとスキや感想をお送りくださると、間違いなくそれは作者のエネルギーとなっていきます。そしてパルプ界隈(たぶんSF界隈やエンタメノベル界隈を含む)も盛り上がっていくので、ぜひたくさんのスキをお願いいたします!
 今回は以上です。


《終わり》

ノベライズ・幅広・ボクシング(20240213)(復)

 二月! 去年は異様に寒くて仕方がなかった季節だが、今年は思ったより暖かいです。このまま春になるのか……!?

 本日は読書感想文を書いていきたいと思います。

 

小説 機動戦士ガンダム 水星の魔女1

 

高島雄哉『小説 機動戦士ガンダム 水星の魔女1』KADOKAWA、2023
 水星の魔女のノベライズ! アニメ放送当時から楽しんで観ていましたが、SF用語が多く、活字で術語を確認したいので購入しました。
 読んでいて感じたのですが作品での説明文は控えめで、たまに海外文学で見られるページの半分を占める風景描写とかメカニック描写、くだくだしい解説は殆どありません。どちらかというと梗概に色をつけた作風に近い。これから本を読もうとするティーンエイジャーや、サッとあらすじや内容を確認したい人にとって便利かも。
 創元SF文庫とかハヤカワSF文庫の作風を期待していましたが、レーベルがKADOKAWAなので、スニーカー文庫に近い……のかもしれません。
 会話もおおよそアニメ版と同じですが、セリフの入れ方が令和的で新しいと思いました。
「あ握手!」とか、
「もう食べます?」「くいしんぼ」
 のようにレスが早い。会話で無駄を出さないシャープさを感じられます。
 アニメで「アーレア・ヤクタ・エスト(賽は投げられた)」とラテン語で発するシーンがありました。小説だとやはりラテン語表記をするのか……? と期待していましたが、カタカナ表記でした。
 内容はアニメを一話~三話まで収録しているほか、オリジナルエピソードもあります。オリエピではハロが自律して動いてます。
 巻末にはMSのルブリスやエアリアルの資料の絵が載っているのですが、普通の本で買ったので、サイズが小さくて細かいところがよくわかりません! 画像の資料としての理由で購入される方は、電書で買うほうがいいかもしれません。

 現在は三巻までシリーズが刊行されています。

 

https://g-witch.net/product/104/

 

文字渦

円城塔『文字渦』新潮文庫、2018

 最初はタイトルを「もじか」だと勘違いしていましたが、「もじうず」と読むのですね。
 短編集で、古代中国から現代日本、未来の宇宙船を通して、文字そのものをテーマとした話が展開されていきます。人々の姿を陶器に写していく職人の視点、発明家のように文字に関わる開発をしつつ隠遁して暮らす天才女性の視点、ソフトウェアに入力されることで大量に増殖した文字の視点など、私の頭脳を軽々と越える跳躍を見せて、文字についての小説が書かれます。川端康成文学賞日本SF大賞を受賞したのも頷ける話。どうしてここまで極端に話が書けるの!
 世界観は通底して同じなのですが、短編のジャンルもそれぞれ異なっています。歴史やSF、仏教、ミステリなど幅広く取ってあって、それに応じて文体も変わります(本当にスゴい)。気に入ったフレーズは「とびきりイカ仏国土を作り上げたいと願う法蔵の願いをみてとった世自在王は、」の辺りでした。エッジが効いているのにシャープかつ重厚な世界観を体現したのはまさに偉業。あと、某ゲームが想像もできない形で物語に登場します。こんなのあり?
 巻末には参考文献も載っています。東洋文庫も載っていて、博識なんですぜ……!


https://www.shinchosha.co.jp/book/331162/

 

青が破れる


町家良平『青が破れる』河出文庫、2019

 ボクサー志望のおれが、友達に頼まれて友達の彼女と出会いつつ、家庭を持った奥さんと不倫している話。純文学です。

 主に四人~五人でぐるぐる話を回しながら、暗くもあり閉塞感のある世界観を導き出す文章構造。短編映画にも毛色が似ているかもしれません。

 芥川賞を受賞した『1R1分34秒』とボクサーというテーマは同じなのですが、あちらは張り詰めた空気感と絶え間ない修練の世界が続いていましたが、こちらではむしろ弛緩した、人間関係を軸にした仄暗いドラマが広がります。

 病気の女、友達、主人公の不倫相手と相手の子供、そして主人公が世界をゆっくり巡りながらボクサーの日々に埋もれる。暗い読書体験を味わえました。巻末にはマキヒロチ氏による、小説の一場面を切り取った漫画も収録。画風がモーニングって感じです。

 

https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309025247/

 

 今回は以上です。

 

 

逆噴射完と読書日記(20240209)(復)

 2024! それは偶数でありながらなんとなくAKIRAを想起してSFチックな羅列であり攻殻機動隊だと笑い男が出現して映画だと「カナダ東部の研究所で爆発騒ぎが起きて脱走者が出たが大きな問題はなく……」みたいな年表の一番上に位置するような年ですが、今年です。本年も体鍛えたり音楽聴いたり小説読んだりと、いろいろとやっていきたいですね……!

 既に二月になりましたが、逆噴射まとめを(十二月・一月にはできませんでした……)します。ジョン久作さんの作品が大賞を受賞されました。

ジョン久作さん大賞受賞

 あらためて、逆噴射小説大賞2023の受賞おめでとうございます! 受賞当時は細かいつぶやきでしかお祝いできなかったので、こちらで改めて祝賀したいです。
 受賞の詳細は上のnoteに書かれているのでぜひ読んでほしいです。私の感想は以前のピックアップに記しましたが、一点付け加えたいところがあります(知人に感想を聞いてみたところ、新しくもたらされた知見です)。
ストーリーテリングがうまいのは勿論であり、なにより主人公が外界からの受動的刺激ではなく、ある問題を解決するために能動的に自ら行動している。そしてそれによってもたらされた別な問題と遭遇している」という視点でした。新しい視点です。目から鱗です。
 他の作品では「俺の元に問題が出た! さあどうする!?」という締め方が多いのに対して、『悪魔の風~』では、「とある問題がある! ゾーイは問題解決のために森林火災へと飛び込んだ! しかし、そこにカルト教団が悪さをしてきて更にピンチになった! どうする!?」という締め方です。
 言い換えると、主人公が先んじて問題を解決しようとしており、その副産物として厄介事が押し寄せてきています。私の作品はこの辺が不足していたので、まあもうちょっとだな……というレベルでした。
 この辺の能動さ加減や主人公がリードすることで事態を動かす感覚は、逆噴射2022における最終の最終選考作である『Q eND A【キューエンドエー】』にも通じるかもしれませんね。

『悪魔の風の軌跡』ピックアップ


 二作品ともパワーがあって凄みがあるので、ぜひ皆さんもお手すきの時にご一読いただけると幸いです。
 また、ジョン久作さんの受賞noteでは、「2023で作品を投稿するために意識したこと」「ChatGPTの使い方」「投稿タイトルで気をつけること」などが丁寧に記されており、これは有料noteでも読みたくなる実用性のある内容ではないか……!? という記事でした。とても有用であり、役に立つので、ぜひオススメしたい文章です。
 そして、オッこれは……! ピカピカに光るビール!

 こいつは壮観ですね!

 私の作品の解説やライナーノーツとかまだいろいろ残ってるんですが、今回は読んできた本の感想を述べたいと思います。アイデアを得たいなら、やっぱり本だぜ……(映画は観ながらぼーっとするので内容を忘れていることがしばしばです)!

田中~年齢イコール彼女いない歴の魔法使い11


ぶんころり『田中~年齢イコール彼女いない歴の魔法使い 11』マイクロマガジン、2020

 現代×ファンタジー小説を書いていることもあり、資料兼趣味としてファンタジー小説をよく買います。しかしこの作品は非常に面白い。

 一~九巻までのあらすじ:事故(たぶんトラック)で命を落とした田中が異世界に転生し、高いINT値からなる超ヒール能力で異世界を満喫しようとするが、生来の顔の悪さと性格が災いして異性にはまったくモテず、他人からは忌み嫌われ、苦戦しつつも成り上がっていく話。
 十巻のあらすじ:在住するペニー帝国で爵位を得て、自分の街も持った田中。色々あって魔王をボコボコにして、ドラゴンやロリムチなエルフといったヒロインといい雰囲気になったのだが、急に別な大陸に召喚された。
 異世界転生モノでは最も楽しみかもしれない作品。チート級の能力を持っているので、敵を殴って社会的地位がドンドン上昇していく(言い換えるとどんな相手でも殴り合いになった時点で勝ち確)のに、「女性と付き合うなら乙女がいい」(マイルドな表現)という田中の難儀な性格と顔の悪さ――主に「醤油顔」「中年アジアン」「ブサメン」と表現――により、本来ならスルーできる無理難題が降ってきたり、仲間に裏切られたりと、ある意味で先が読めないスリリングな読書体験が味わえます。物質的にはどんどん満たされていくのに、精神的な飢えがいつまでも満たされずに右往左往します。非モテエピソードの白眉は、一巻のオークに襲われる宿屋の夜です。モテない、ハブられるってこういうことなんだなって、肌身で感じられます。
 今作からは知らない大陸に全裸で召喚された田中。「このような男が召喚獣だなんて……!」とまとめられながら、その場の状況を適切に把握しながらサバイブしようとします。全体的に田中の作品は、ちょっと紹介がはばかられる独白だったり、独特な心理描写の癖が強く、登場するキャラも頭のネジが一本抜けているようなクセモノが多いですが、今回もそれを楽しみながら読めました。面白いけどアニメ化、絶対無理だろうな……
 たびたび挟まれる社畜エピソードも面白い。交渉や難題が行き詰まった時、転生前の会社員時代が蘇ります。金額を決定する権限がないのに外資との交渉最前線に放り込まれたこと、上司にしか発言権がない打ち合わせ、バブル期の熱海……ファンタジーに転生したのに現実がつきまとう緊張感。豊富な社畜の経験値を持ちながら田中はサバイブを続けます。サラリーマン解像度が高いせいか、王宮での貴族・爵持ちの謁見や外交会議、スパイとの交渉についても「言い換えるとこういうことだな」と腹落ちも早い。あと、田中の独白が大人向けなので、青少年には注意したい作品。漫画化した作品が二作出ています。

https://gcnovels.jp/book/641

千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話

済東鉄腸『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話』左右社、2023

 タイトルだけ見たらものすごく異世界転生の感じがしますが、ノンフィクション・随筆であり、本の中身がタイトルを地で行っています。
 内容としては、日本人なのにルーマニア語で小説を書き、ルーマニアの文芸誌に小説が載るようになった作者の半生が、エッセイとして記されています。
 陰鬱な大学時代、就活の失敗(「就活、失敗しました~」という軽薄な口調でかえって心に突き刺さる)、引きこもり、それから映画を観まくって映画エッセイを書いていくうちにルーマニアにハマり、小説を書くようになり、やがてFacebookを通してルーマニア語を習いながら、ルーマニア語でも小説を書いていく……という人生。現実を写した内容なのにドラマチックであり、圧倒されてしまいました。
 著者の半生を記したエッセイであります。本の終盤、著者はここまで読み終えた読者たちを励ますように、自分と同じ立場の人たち、経済的に、あるいは実存的に苦しい立場に追い込まれた人たちに向かって優しく語りかけています。「良かれ悪かれ 今お前がそこにそうしているのが最大の強み」という座右の銘を送っています(BUCK-TICKの歌詞だそうです)。自分の生き方に悩んでいる人にとって突き刺さる文章です。
 語りが「俺」で一貫しており、タイトルの軽妙さも相まって、小説の主人公がひとり語りを続けている印象があります。最近だと乙一異世界転生小説を思い出しますね。


 著者がルーマニア文学や東欧文学が好きでとにかく読みまくっているので、文章中でも東欧の小説やエッセイ、ノンフィクションなど、さまざまなジャンルの外国書籍が紹介されています。
 著者はFacebookを通してルーマニア人にフレンド申請をしまくることで、千葉県の実家に住みながら自分なりのメタバースを構築しています。いまのTwitter(現X)でこれが応用できないか? と思いましたが、どれがbotアカウントでそうでないか、どれがインプレゾンビなのか、判別が難しいので、苦しいかもしれない……
 繰り返しになりますが、「重要なのはどこにいるかじゃない。俺たちが今そこにいること、これ以上に価値のあることはない。だから俺にとっては、他でもない今にそこに立ってるアンタこそが未来だ。やってやれよ、おい!」という締めの文章が、改めて力づけられる感じがあり、良いエッセイでした。ちなみに著者はnoteを運営しており、短編を無料公開しています。

左右社サイト
https://sayusha.com/books/-/isbn9784865283501

済東鉄腸note
https://note.com/gregariousgogo/

私はあなたの瞳の林檎


舞城王太郎『私はあなたの瞳の林檎』講談社文庫、2021

 短編集です。収録作は『ほにゃららサラダ』『私はあなたの瞳の林檎』『僕が乗るべき遠くの列車』。ジャンルは恋愛小説です。
 私は恋愛小説が苦手で、「どうせくっつくかくっつかないかのパターンだろう」と斜に構えたスタイルですが、そんな私でも芸大や芸術をテーマにしたり、恋愛に発展しそうで発展しない感覚を主題にしたりと、手を変え品を変え別な風味を出そうとしており、楽しんで読めました。
『僕が乗るべき遠くの列車』ではのっけから「親がノストラダムスの大予言を信じていて……」となり、そうか、ノストラダムスってそんな前なのか……! とビビります。チェンソーマンでは現在進行系でノストラダムスの予言と戦っていますが、この小説では完全に過去として書いており面白かったです。
『僕が乗るべき~』においては毛色がちょっと純文学的で、最初にクライマックスと呼べる大変なシーンをぶっ込んできて、その後は少年少女が絆を深める日常シーンが続く……というエンタメ小説とは異なる構造になっていて、普段読む小説とは違っていて新鮮味がありました。
 というものの、メインの事件は少年少女のすれ違いなのですが、すれ違いをどう解釈したらいいのかわからない部分が多く、こんがらがることがありました。
 おすすめは『ほにゃららサラダ』です。芸大に入った女性の主人公が、まさしく天才で作品を制作しまくっている男性と出会っていい感じになるものの、女性は芸術家としてのエゴやプライドがあるため、簡単に心を許していく関係性を作れずに……という話。プライドなんて捨てちまえよ! と外野は見ていて思うんですが、人間、そう簡単には思っていることを変えられないのがミソですね! 十代、二十代の失敗して失敗してとにかく失敗する恋愛模様(というか人間関係)が記されていて面白かったです。

https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000355481

 今回は以上です。一月中にもう少し投稿したかったのですが、思ったより時間が空いてしまいました。今年の目標は、もうちょっとマメにnoteも更新していくことですね!
《終わり》