がらくたマガジン

小説を書いたり、読んだり、勉強したりするブログです。執筆者紹介  (復)=復路鵜執筆  (K)=春日 姫宮執筆

ノベライズ・幅広・ボクシング(20240213)(復)

 二月! 去年は異様に寒くて仕方がなかった季節だが、今年は思ったより暖かいです。このまま春になるのか……!?

 本日は読書感想文を書いていきたいと思います。

 

小説 機動戦士ガンダム 水星の魔女1

 

高島雄哉『小説 機動戦士ガンダム 水星の魔女1』KADOKAWA、2023
 水星の魔女のノベライズ! アニメ放送当時から楽しんで観ていましたが、SF用語が多く、活字で術語を確認したいので購入しました。
 読んでいて感じたのですが作品での説明文は控えめで、たまに海外文学で見られるページの半分を占める風景描写とかメカニック描写、くだくだしい解説は殆どありません。どちらかというと梗概に色をつけた作風に近い。これから本を読もうとするティーンエイジャーや、サッとあらすじや内容を確認したい人にとって便利かも。
 創元SF文庫とかハヤカワSF文庫の作風を期待していましたが、レーベルがKADOKAWAなので、スニーカー文庫に近い……のかもしれません。
 会話もおおよそアニメ版と同じですが、セリフの入れ方が令和的で新しいと思いました。
「あ握手!」とか、
「もう食べます?」「くいしんぼ」
 のようにレスが早い。会話で無駄を出さないシャープさを感じられます。
 アニメで「アーレア・ヤクタ・エスト(賽は投げられた)」とラテン語で発するシーンがありました。小説だとやはりラテン語表記をするのか……? と期待していましたが、カタカナ表記でした。
 内容はアニメを一話~三話まで収録しているほか、オリジナルエピソードもあります。オリエピではハロが自律して動いてます。
 巻末にはMSのルブリスやエアリアルの資料の絵が載っているのですが、普通の本で買ったので、サイズが小さくて細かいところがよくわかりません! 画像の資料としての理由で購入される方は、電書で買うほうがいいかもしれません。

 現在は三巻までシリーズが刊行されています。

 

https://g-witch.net/product/104/

 

文字渦

円城塔『文字渦』新潮文庫、2018

 最初はタイトルを「もじか」だと勘違いしていましたが、「もじうず」と読むのですね。
 短編集で、古代中国から現代日本、未来の宇宙船を通して、文字そのものをテーマとした話が展開されていきます。人々の姿を陶器に写していく職人の視点、発明家のように文字に関わる開発をしつつ隠遁して暮らす天才女性の視点、ソフトウェアに入力されることで大量に増殖した文字の視点など、私の頭脳を軽々と越える跳躍を見せて、文字についての小説が書かれます。川端康成文学賞日本SF大賞を受賞したのも頷ける話。どうしてここまで極端に話が書けるの!
 世界観は通底して同じなのですが、短編のジャンルもそれぞれ異なっています。歴史やSF、仏教、ミステリなど幅広く取ってあって、それに応じて文体も変わります(本当にスゴい)。気に入ったフレーズは「とびきりイカ仏国土を作り上げたいと願う法蔵の願いをみてとった世自在王は、」の辺りでした。エッジが効いているのにシャープかつ重厚な世界観を体現したのはまさに偉業。あと、某ゲームが想像もできない形で物語に登場します。こんなのあり?
 巻末には参考文献も載っています。東洋文庫も載っていて、博識なんですぜ……!


https://www.shinchosha.co.jp/book/331162/

 

青が破れる


町家良平『青が破れる』河出文庫、2019

 ボクサー志望のおれが、友達に頼まれて友達の彼女と出会いつつ、家庭を持った奥さんと不倫している話。純文学です。

 主に四人~五人でぐるぐる話を回しながら、暗くもあり閉塞感のある世界観を導き出す文章構造。短編映画にも毛色が似ているかもしれません。

 芥川賞を受賞した『1R1分34秒』とボクサーというテーマは同じなのですが、あちらは張り詰めた空気感と絶え間ない修練の世界が続いていましたが、こちらではむしろ弛緩した、人間関係を軸にした仄暗いドラマが広がります。

 病気の女、友達、主人公の不倫相手と相手の子供、そして主人公が世界をゆっくり巡りながらボクサーの日々に埋もれる。暗い読書体験を味わえました。巻末にはマキヒロチ氏による、小説の一場面を切り取った漫画も収録。画風がモーニングって感じです。

 

https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309025247/

 

 今回は以上です。