がらくたマガジン

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野尻抱介『南極点のピアピア動画』――初音ミクが宇宙と交流する頃の人類 (復)

 野尻抱介『南極点のピアピア動画』ハヤカワ文庫、2012を読んだ。SF小説である。小説だが実在ジャーナリストが実名で登場しててびっくりした。

 

南極点のピアピア動画 (ハヤカワ文庫JA)

南極点のピアピア動画 (ハヤカワ文庫JA)

 

 

 

 四篇収録の連作集である。一話六十ページほどで、最終話が書き下ろしの百ページ。どんな内容かというと……ボーカロイドの小隅レイである。カバージャケットはどう見てもミクなのだがこの世界では小隅レイである。そういうことにしてほしい。小隅レイがラブソングを歌い、地球外生命体と小隅レイの形式を通してコミュニケーションしたり、小隅レイを共通点にして男女が青春したり、そういう作品である。宇宙に行くとか深海があるが、暴力はあまりないので、ゆったりと楽しめる。

 

 またこの世界にはピアピア動画という動画サイトがある。メニューが八個くらいあってピアピア技術部とか画面内でコメントが流れる仕様がどうしてもあの動画サイトなのだがぽいのだが、そこは棚においてほしい。確かにニコニコ動画はちょっと見づらいし生放送とかもあまり見ないが、最近のニコニコ動画はログインしなくても動画視聴ができるようになったし、ニコニコ静画も盛況でおもしろいマンガも載ってるので、許容範囲多めにしてほしい。ピアピア動画の由来は、ピアツーピア型の形式で運営されているのだし。

 

 上でも書いたが、悪人が出てこない。男が女を宇宙に連れて行く話だったり、ハミングマートに勤める女が小隅レイ経由で男と知り合う物語があるが、最終話『星間文明とピアピア動画』のところからグッと話が加速していく。宇宙人が出てくるが、小隅レイを媒体にして人類と交流を始めるのだ。

 

 あるいは最終話に全てを打ち込むような勢いで伏線が回収されていく。人類はレイを用いてようやく宇宙人と対話できるのだが、主人公はやはり人類だ。小隅レイはスーパーヒットしたが、それ自身の意思は特にないただのボーカロイドなので、やはり人類が頑張らねばならない。ピアピア動画とそこに集まる有志たちが試行錯誤し、どうにかこうにかやっていく。

 

 一番気に入ったセリフは、「人間じゃないものが人気者になると、みんな幸せになる」(185頁)になる。スーパーヒットの小隅レイにあやかって、人々の行動が促進されるのである。小隅レイをメディアにして創作をすると、それまで認知されなかったものが受け入れてもらえる。小隅レイ関連のグッズも売れる。小隅レイ関連のイベントは人気が出るし稼ぎもいい。二次創作よりも一次創作に寄せていった、まさにメディアとしての小隅レイであり、それが広がると宇宙にも手が届く。

 

 活動の土台になるのはそれぞれの《好き》という感情で、そこから派生した行動は、人々にバリエーション豊かな刺激を与えるのだ。面白かった。

 

《終わり》