がらくたマガジン

小説を書いたり、読んだり、勉強したりするブログです。執筆者紹介  (復)=復路鵜執筆  (K)=春日 姫宮執筆

巌窟王その十二・最終(復)

 DVD表紙を飾るのは伯爵。壮絶な迫力を秘めているのですが、でも初見だとちょっとビビります。

第二十三幕『エドモン・ダンテス』:崩れて落ちる。悪夢も、羨望も、復讐も。
 闘争を繰り広げるフェルナンと伯爵。やがて衝突はモンテ・クリスト伯の勝利で幕を閉じるが、しかし仇敵はエデを人質に取る。それを目にした伯爵は素知らぬ顔で、従者ベルッチオにフェルナンの息子アルベールを人質に取らせた。息子と勝利という天秤の最中でフェルナンは揺れ、やがて心が折れた。父はエデを離してアルベールの助命を嘆願するが、伯爵は冷酷にもそのまま部下に息子の殺害を命ずる。躊躇いを見せる侍者ベルッチオにため息をついたモンテ・クリストは、自身が少年へと銃口を向けた。
 物語はいよいよ音を立てて瓦解の意図を見せ始めます。解かれていく因果の絡まりと人物たち。伯爵が莫大な富を通じて築き上げた夢の世界は終わり、潰える人は潰えます。そして旅立つ人は外へと向います。壮絶な最高潮とも考えられるでしょう。
 話の中で簡単に巌窟王との契約に触れられていますが、このケースにおいては、『時間制限付き契約を超過したための人格の消滅』から、『伯爵人格による契約不履行による、契約自体の消滅』へフェーズが入れ替わったのでは、と思われます。それがどこに行くのか、次は誰に(あるいは何に)取り憑くのでしょうか。それは新しい悲劇の芽吹きとなって波を立てるのでしょう。
 多くの人が伯爵と関係しましたが、結局打ち勝ったと言えるのは、アルベールただひとりなのでしょう。フェルナンでも、エデでもなく。紆余曲折と何らかの失望、喪失を得ましたが、結果的に少年だけがたどり着いたとも言えます。

 
第二十四幕『渚にて:伯爵が死んで、どうなったのか?
 火が消えても残り香が僅かに残るように、人物たちの軌道をまとめた話。僅かな未来に生きる人々や、パリはどうして在るのか、情景がちらほらと星のように見え隠れします。舞台が幕を下ろす直前に、人物たちの最後の挙動はどのようなものなのか、何を残して何を置いていくのか。そうした過程を見るのは楽しくもありわびしくもあり、なんだかホロリと来るようです。
 

まとめ
 巌窟王は見ていて非常に面白いと思ったわけでありますが、理由を考えてみますと、みっちりとまとめられた重厚な世界観、きっちりまとめられたキャラクターたちの上に、一つ抜けたアルベールと伯爵が君臨していたような印象です。アルベールは少年らしい不安定さと、青春時代を不安げに揺れる至らなさが随所で見られますが、とにかく伯爵が非常に強固であるためか、モンテ・クリストが全ての糸を引いているようなイメージさえ持ってしまいます。
 また設定という面では、宇宙という開放的で未知を表す概念に、フランス古典文学という、何かしらの閉塞感を与える逆ベクトルを加えられたところが面白く思えます。ヴィルフォール家のように生臭い家と宇宙を両立させているとか、うーんスパイシー! 
 キーワードでまとめますと、【宇宙】【復讐】【閉塞】【友情】【過去と未来】が特に当てはまるような気もします。ユージェニーとアルベールの関係を考えれば【恋愛】も入りそうな気がしますが、個人的にフランツとの友情の方が気になるので、恋愛はカテゴリから消えてしまうように思えます(え、フランツも愛してるんじゃないかって? いやいや……抜かれますよ?
 ひと味もふた味も違うようなSFを楽しみたい方に、まさにお薦めしたい一品でありました。美味しかった!

巌窟王 Blu-ray BOX

巌窟王 Blu-ray BOX