:帰ってきたロアナプラ! 帰ってきた悪党ども! そして帰ってきた血飛沫!
猟犬メイドロベルタによる無法の街再訪問以降の話。米CIAはロアナプラの犯罪的価値を知りえ、利用しようと図る。その号令により進められる『ペルセフォネ作戦』と、呼応するように動き出す中国大陸系マフィア。否応無く吹き荒れる血塗れの争いに巻き込まれる、ロアナプラ――ラグーン商会、ロットン・“ザ・ウィザード”、シェンホア、ソーヤー、バラライカ、張――の面々。彼らは時に図抜けたコミカルさで、時に無慈悲な殺人鬼として、ロアナプラの町を馳せ、より刺激的な形で事件はうねり出す。
今作メインはCIA職員だったエダと魔術師ロットンです。私的に好きだったのはロットン視点。一秒後に何をするのか誰にも読めないという完全なるトリックスター的な立場にいる彼は客観的に見たらすごく楽しいです。虚そのものの行動振りや、解体屋ソーヤーとの掛け合いも見ていてニヨニヨできるので超お得。エダ編もハリウッド調のサスペンスが展開されていて先の読めなさがありますが、如何せん相手が混沌そのものでもあるロアナプラの為か、半ば結末が見えているようでもあり、本当に何が起こるか分からないという緊張感がやや薄れた風味となっており残念。ただ、メインの舞台は決して崩れず、また主要登場人物も損傷することのないノベライズ作品という面から考えると、そこらへんは考えていても詮なきことのような気がします。一枠越えた作品も見てみたいものですが、本編との兼ね合いを考えたらややこしくなりそう。ぐぬぬ。
個人的にキャラとして際立っていたと思うのは女傑バラライカと柳葉刀使いのシェンホアでした。バラライカには背筋に嫌な液体が一筋滴るような小悪魔めいた戦争思考が備わっており、長くない出番ながら原作のキャラクターを十二分に活かしきった印象です。前回の『シェイターネ・バーディ』ではバラライカの狂的な料簡が多数見受けられましたが、今作も際立っていました。一方シェンホアの場合は語り口がのんびりした趣を感じさせるので単純に好みなんですが、読み終えてこうした語りはコメディでもバイオレンスのどちらでも通用することに気づきました。恐るべきはですだよ姉ちゃん。次点に死体解体人ソーヤーも挙げられますが、リスみたいな体つきで小腸ぐらいは平気で引き抜きそうなキャラクターセンスには恐れ入るばかりです。そして終盤に入ると完全に予想外だった人物が登場して度肝を抜いてくれるのですが、いやこれは正直気づきませんでした。うーん。
第二弾ということで第三弾は出るのかしら、と邪推もします。次は黒魔術教団でも出たら楽しいことでしょう。もしくはサイレントヒルのような。
- 作者: 虚淵玄,広江礼威
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2011/01/18
- メディア: 文庫
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