がらくたマガジン

小説を書いたり、読んだり、勉強したりするブログです。執筆者紹介  (復)=復路鵜執筆  (K)=春日 姫宮執筆

築地俊彦(illustration/NOCO)『特装版 艦隊これくしょん -艦これ- 陽炎、抜錨します! 3』ファミ通文庫、2014

【イントロダクション】

 南へ、南へ。
 少女たちは駆けていく。
 そこに何があろうとも。何が待ち構えていようとも。
 南へ、南へ。
 リンガと名のつく泊地へと。
 植物茂り太陽注ぐ南方へと、陽炎たちは向かう。

【あらすじ】
 大規模作戦は集結し、不知火は呉へと戻った。戦いと訓練という日常に戻った陽炎達だったが、人と深海棲艦との戦いは終結の兆しを見せなかった。西方海域での攻勢のために露払いを繰り返す陽炎たちに元に、辞令が下された。内容は、南方のリンガ泊地への転属。戦争現場の西方ではない事に疑問を抱いた陽炎たちであったが、南方――南の島へと、ひとまずは休暇代わりにとリンガへと向かった。しかしそこで陽炎たちが知り合う事になるのは、ここにいる艦娘は自分たちだけだと言う叢雲とあきつ丸。今ここに、駆逐艦揚陸艦、そして一人だけの老提督の生活が幕を開けた。
 
【レビュ】
 いよいよ出ました、第三巻です。ここまで来ると本を束ねた厚みもけっこうな物になるので、歴史を重ねてきたのだなあ、と何故かしみじみします。ちなみにカバーを比較してみると、三巻が最も色気があるように思います。曙と潮の足が魅惑的だからでしょうかね!
 物語の軸はやっぱり駆逐艦の陽炎にありますが、今回ではちょっと趣向が変わりました。底にあるエンタメは変わらないながらも、どことなくミステリが漂うのです。不可解な辞令。二人しかいない艦娘。不審なリンガでの生活……後々に活きてくる伏線があちこちに張り巡らされた所は蜘蛛の糸のようにあちこちに存在していますが、けれども陽炎たちは変わりません。無骨で(女のコにつける表現ではありませんが)俊敏、そして真っ直ぐです。北方海域では仲間たちのために全力を尽くし、疑問を抱くリンガでの生活でも、海岸でビーチボールを使って遊んだり生活環境を改善しようとテーブルや食事する場所を組み立てたりと余念がありません。
 ちなみに駆逐隊の雰囲気を立てる言葉として一番良さそうなのが、リンガ砂浜で遊ぶ事になった際の、
【子どもっぽいことにこそ真剣になる、駆逐隊の本領発揮であった。
 海の上が乱闘状態のプロレスリングのようになってきた。】
 です。一言で言い表すとこんな駆逐隊がワイワイとやっているので、とても楽しそうです。こいつらは大笑いしているシーンが一番似合っている。
 ついでに今作で雑誌とか映画などのミニアイテムも出てきますが、艦これ世界での娯楽はこのように変遷してるのだなあ、と思える描写の仕方になっていて良いのです。二次創作とかの資料にもなりそうです。戦時中の娯楽であったり、人々の手に入るものはこんな変化をしている……と類推が出来ます。
 そして後半から始まる戦闘。駆逐艦と来れば深海棲艦との命を削り合う戦いが欠かせませんが、今回もそれらは描写されています。リンガを舞台にした戦いはこれまでとは毛色を変えて細かく、戦術を大事にしつつも戦略を疎かにもできないものであるため、細心の注意を必要とします。力で劣る者が闘志と知恵を基に劣勢ながら戦いぬく、というのは今シリーズの目玉にあるように思えますが、三巻目でもそれは変わらずシャープに描写されています。そして負けん気とガッツが強い駆逐隊が、少女らしさを持ちながらも戦に挑む様は、とっても艦娘らしくて大好物なのでした。詳細は本編にて……どうぞ! それとゲーム内でのとある要素が、今作で応用されているのにビックリ。そういう用い方もあるのか!
 そして今回は、前回の不知火とまた異なる味を持つ叢雲とあきつ丸。正直あきつ丸が出てきた事は意外でありましたが、彼女も陸から海へやってきた者として動き、活動し、そして活躍します。陽炎たちが驚くほどのパワーアクションを見せてくれますが、私も驚きました。うわあきつ丸つよい。
 叢雲もまた食えないキャラとして描き出されていますが、第十四駆逐隊の少女たちに劣らずキャラクター像が濃く、十分に強い印象を与えてくれるのです。特に終盤は燃える展開とともに七面六臂を叩きだしてくれるので個人的大盛況。ゲーム中での印象に則りながら、それでいてキャラを一歩前に出す書き方は良いです。オリキャラとしてリンガ泊地にいる老提督も登場しますが、こちらも艦これ世界とマッチしております。老兵! 老兵がいるぞ!
 ちなみに今回、前回出てきた某キャラの影響を受けたようなシーンが出てきて、おやおや歴史がローム層のように積み重なってしまったぜ……! とニヤニヤできます。これを感化と呼ぶべきか、あるいは成長と捉えるべきでしょうか。
 そして今回は、特装版です。スゴいです。ぷれみあむ小冊子がついてきました。内容は漫画と二種類のギャラリーです。ギャラリーを見返していると、やっぱこの潮は色気があるよな
 漫画の内容は詳しく書いてしまうとアレなので制限せざるを得ませんが、スゴイです。某キャラがいます。しかも「この絵師の人は漫画描いた方が受けるんじゃないかなぁ」とか思っていたので、ツボに入りました。もちろん駆逐隊の彼女たちもいますが、静的なキャラ絵ではなく、動的な漫画として描かれると魅力の質が異なってきます。カツカレーだったのがかつ丼になって、うまい! 味が濃くなった! そう叫ぶのです。魅力が余す所なく大胆に描かれていて画集めいたアトモスフィアを……のもにゃもにゃなのは置いておくとして、キャラの関係性やら日常などが分かって収穫でした。お気に入りは九頁のガツガツしてる所。他の絵師さんが投稿してるギャラリーもありましたが、ギャラリーは……そうですね……ギャラリーでしたね。途中で石破ラブラブ天驚拳が混ざっていたのがピンときました(てきとう)。
 キャラたちも順調に成長し、他の人と出会って強くなり、ついでにバトルも楽しめるオススメの一本です。
 それとさりげなく挿絵のクオリティも高く、パジャマ姿の陽炎だったり皐月だったり、叢雲にあきつ丸もしっかり描きこまれています。二人のおっぱいけっこうデケえな!
 特にベストショットと思ったのはラストで入る挿絵です。なんというか、この一枚を切り取りました。日常から無造作に切り取りました、というさりげなさと人が描いたツクリモノの感覚を、かなり調和させて作り上げたもののように思えるので、大変良かったです。詳細は本編をどうぞ!(宣伝)