がらくたマガジン

小説を書いたり、読んだり、勉強したりするブログです。執筆者紹介  (復)=復路鵜執筆  (K)=春日 姫宮執筆

築地俊彦(illustration/NOCO)『艦隊これくしょん -艦これ- 陽炎、抜錨します! 2』ファミ通文庫、2014

【イントロダクション】
 
 艦娘たちによる決死の作戦から数ヶ月。陽炎たちはいつものように厳しく、いつものように楽しく訓練に勤しんでいた。
 いつからか、鎮守府に見慣れない顔が増えていく――横須賀鎮守府に呼び寄せられた艦娘たち。新しく始まる、大規模な作戦に参加する少女たち。
 そして陽炎は、その作戦に自分が知った名前が参加する事を、この鎮守府にやってくる事を知る。
 陽炎型二番艦駆逐艦、不知火。
 かつて呉鎮守府から異動する際に残してきた、唯一無二の親友だった。

【あらすじ】
 
 前回の作戦で更に絆を深めた、陽炎を中心とした、曙、潮、長月、皐月、霰と言った横須賀鎮守府の第十四駆逐隊の面々。フロチラ・リーダーである陽炎の指導の元、彼女たちは荒っぽくも厳しい訓練を重ねていた。そこに訪れる一報――かつての陽炎の同僚だった、陽炎型二番艦駆逐艦の不知火が横須賀鎮守府に配属されるというのだ。驚喜し、不知火を出迎える準備に大わらわになる陽炎。しかし第十四駆逐隊の少女たちは自分たち以上に陽炎を知る不知火に対し、不穏と困惑を隠すことができない。そして不知火は陽炎に、共に呉に帰って欲しいと呼びかける。駆逐隊の面々は反発し、ぎくしゃくした雰囲気が流れ始める。そうした内輪とは裏腹に、鎮守府では深海棲艦に対抗するため、海上大規模作戦を計画していた。火蓋を切られる攻勢作戦に、第十四駆逐隊の艦娘たちは、身を投じる……

【レビュ】
 
 基本的には前回と路線を同じくするリアル路線です。駆逐艦達が艤装を操作し海上を走る訓練風景。ペンチやハンマーで魚雷を取り付けるシーン。しかし大きな変転要素として導入されるのは、かつて陽炎の同期であった彼女の存在です。不知火でした。不知火です。不知火なのです(すごく大事な事なので三回言いました)。関係ない話ですがウチの鎮守府では不知火のレベルは2です。ゴメンナサイ。
 見どころとして強調されるのは……そう、女同士の熱い友情です!以後キマシタワー禁止です。
 予兆は一巻からありました。横須賀鎮守府に異動が決定して呉鎮守府から時別れる際、陽炎と残る不知火のシーン。ちょっと引用します。
 【不意に胸がいっぱいになり、陽炎はぎゅっと不知火を抱きしめる。ごく自然に出た行為だった。
「じゃあね、不知火」
「はい」
不知火もゆっくりと抱きしめ返す。陽炎よりも力を込めていた。】 
 と、がっぷり四つの大型建造にも負けない親友物語が展開されていた訳です。それが、二巻で花開きました。
 例えば不知火着任当日。出迎えるために陽炎が朝五時に起きて同室の皐月を巻き込みながら、出迎えの準備をするシーン。
 例えば不知火の到着時。出迎えた他の駆逐艦の面々に殺す目つきでガンを飛ばす不知火の姿。ヤクザなのか
 例えば駆逐艦たち。陽炎と不知火の仲が異常に良いことを見定め、「もしや陽炎と離れ離れになってしまい、終いには駆逐隊に居場所がなくなるのでは」とモニョモニョしだす彼女たち。
 例えば第十四駆逐隊所属の曙。彼女はなんと、陽炎を巡って不知火と血みどろ(誇張無し)の争いを繰り広げます。この場面では【これは駆逐艦(おんな)と駆逐艦(おんな)の勝負です】というセリフが好きです。
 こうした風に、面白さと友情と粉薬ほどの嫉妬を織り交ぜながら、不知火をめぐる第十四駆逐隊のゴタゴタは重なっていきます。その過程は女子校での派閥争いにも似ていたり、あるいは熱血友情漫画で殴りあうライバルたちのようでもあり、さまざま豊かに頁を彩色していきます。修羅場ほど見ていて楽しいものはありませんね!
 ちなみに上述した限りでは陽炎→不知火のようでもありますが、きちんと不知火→陽炎のサインもあるようです。普段の不知火は白手袋を嵌めており、滅多な事では外さず、手袋を取る事に違和感すら覚えています。とは言え陽炎を目の前にすれば話は別。以下ちょっと引用です。
【出撃前に一度だけ、陽炎と不知火は言葉を交わした。駆逐艦寮の廊下でばったり顔を合わせたのだ。
 陽炎が「もう行くの?」と聞くと、不知火は無言で手袋を外し、陽炎のりボンタイに手を触れた。
「曲がってます」
 会話はそれで終わり、不知火は桟橋へと歩いて行った。】
 デレか。二人きりだから存分にデレたのか。
 二人が積み重ねてきた歴史・経験・繋がりが、思う存分に発揮されており、カップリングを期待される方には大満足な内容となっております。
 同時に、それらを遺漏なく発揮させてくれるのがストーリーの変遷です。
 前作もエンタメ的な回し方で読者を飽きさせませんでしたが、今回もその路線は変わりません。深海棲艦に対する大規模作戦では、敵たちとの戦闘シーンや、戦う存在である艦娘として行動する陽炎たち、また単独で深海棲艦に挑む不知火の姿も存分に描写されています。上に挙げた人間関係の上に積み重ねられた、兵士としてのドラマ。時折挟まれる、陽炎と不知火の過去――フラッシュバックにも似たそれらの記憶は、激化する戦局や悪化する戦闘模様と相まって、悲惨さと痛烈さを強烈に醸し出します。どんどん重みと強さを増していく過去の映像が次第に現在へと広がり、やがて行動を起こさせる契機となります。
 また今回は不知火と陽炎の二人がメインとなっている感がありますが、他の駆逐艦娘たちにもきちんとスポットが当てられています。チームプレーとして動く駆逐艦たちはそれぞれの特色を活かしながら最後までバトルを積み重ねていき、たくさんの音色たちが轟々としたオーケストラを形作るように、全員の勢いがやがて烈風となって突き抜けていくのです。この模様は一挙に打ち倒す爽快感というよりは、むしろ前回と今回で積み上げてきた重厚感と言うべきものでしょうか。前半でかき乱された面々が、後半になれば一つの事へと傾注し、やがてクライマックスへと辿り着く――配分、傾斜具合、そして勢いは前作に負けず劣らずなので、読む人に充実感と勢いの良さを与えてくれます(あと駆逐隊の少女たちも陽炎を大好きなので、なんか作中では陽炎ハーレムみたいになっていて大好きです)。
 同時に、サブとして活動する他のキャラ……重巡たちや提督の姿もちらほらと散見されますが、きちんと彼らも役割を持ち、機能している辺りが良い意味でエンタメっぽいなーと思う次第です。愛宕のお姉ちゃんっぷりは相変わらずですが、セクハラ大魔王の提督も、負けん気第一の重巡摩耶も出演時間が短い割には良い味出しています。もう少しキャラをバラけて出して欲しかったなーという向きもありますが、むしろ出し過ぎると収拾がつかなくなったり、あるいは出しっぱのポッと出で終了してしまうので、あるいはこの具合で良いのかも知れません。
 それと今回、装備品として探照灯が出てます。作品刊行時ではまだゲーム内で実装されていなかったと思うので、これぞ、先見の明ですね……! と思わざるを得ない一品。夜戦ならば当たり前に使う物かもしれませんが!
 前作の模様に、深まった人間関係という、一つ違う彩色が施された一品。一巻がお気に召した方には、是非ともオススメしたい作品です。