がらくたマガジン

小説を書いたり、読んだり、勉強したりするブログです。執筆者紹介  (復)=復路鵜執筆  (K)=春日 姫宮執筆

久々にSSなどでも書いてみました

なあ、あんた本当にどうしようもない状況に陥ったことって無いかい? その人の力だけではどうにもならないことになっちまったこと、まあ、そういうことだな。
俺? そうだな、結構あるよ、俺は。こんなスーツ着なきゃならないようなしがない職業なんかについちまったけど、昔は結構色々やって、やばいことになったことはあるなあ。ま、そんなことはどうでもいいや。肝心なのはあんたの方だよ、そうあんた。
…へぇ、そりゃあまた、のっぴきならないもんだなあ。でも、そんなふうになった経緯が俺にはよく分からないね。もっと以前に努力していれば、そうならなかったんじゃないのかい? …ははは、全くだ。そんなことできてたらこんなことにも、あんたが言うようなことにもならなかっただろうね。いやはや、運命みたいなもんか?
しっかしまあ、どうしてこんなことになったと思う? 一体全体どこで糸がこじれてねじれたんだかなあ。あんたのほうはどう思う? どうせ二人しか居ないんだから、存分に話し合おうじゃないか。
そうかー。まあ、普通はそう考えるよな。俺? 俺はちょっと違うことを考えているかもな。…いや、流石に笑われそうだから言わないよ。自分でもガキの考えだとちょっくら思っちまうしな。やれやれ、こんな歳にもなってだよ。酷いもんだ。
さてと、そろそろ準備をはじめないか? あんまりずるずる先延ばしにすると、やる気が失せちまいそうだよ。こんなもんに張り切る奴は多分居ないと思うけどな。居たらそいつはビョーキだね、ビョーキ。
はいよ、ガムテープ。しっかり目張りしてくれよ。そうでないと空気が入ってきちまうし、脳に障害を負った状態で車中から助け出されるなんてことになるかもしれない。俺はそんなのごめんだ。
ん? 俺の方は大丈夫だよ。練炭はしっかり炊いておいたし、煙も出てきた。こっちの窓にもテープはしっかりがっつり張ってあるしね。
そういえば、あんた名前は何て言うんだ? お互いハンドルネームのままじゃ呼びづらいだろ? …ふうん、そんな名前か。いや馬鹿にしてるわけじゃないよ、こんな名前なんだなあ、って思ってさ。日本人なんてやたら名前の数が多いじゃないか? だから時には感心するようなものもあるのさ。
…ちょっと聞きたいんだけどさ、あんたシートベルトはするか? いやまあ、車の中に居るんだしさ、なんかそうしないといけないって感じ、しないか? お互い運転席と助手席なんだし。
馬鹿に早口だって? はは、そうかもしれないな。俺はあんまり緊張とかしない性質なんだけど、今はすげー緊張してるよ。はは、当たり前だわな。俺らこれから死ぬんだから。しかもついさっき始めて顔を合わせた奴とだしな。
ん? なんだい? ああ、死ぬなんて言わないでくれか。すまんな、確かにそんなこと言われたら怖いだろうな。
なああんた…え? 名前で呼べって? いやすまん、なんか定着しちまったよ。それに名前よりこの呼び方の方がなんとなくしっくりくるんだ。何でかなあ。
まあそれはともかくだ。あんた、家族って居るのか? 別に決意を揺らがせようとかそんなことするわけじゃない。ただ単に聞きたかっただけなんだ。あんまりにも知らないままってのもアレだし。
ふむ、そんなところか。なに、そんな言い方はないだろうって? ああすまんね。でもあんた、幸せだよ。そんなに家族が居てくれてさ。
こっちのところは、おふくろが一人だ。痴呆症にかかってる。いや、かかってたか。ここにくる前だけど、ある朝起きて新聞を取りに行こうとしたら、玄関でばったり倒れてて、首の辺りがべろべろしてた。傍には包丁が落ちてたよ。あたり一面真っ赤だった。
俺にはさっぱりわからんね、痴呆のすることは。自分の斬首刑をしながら通りをつっぱしりたかったのかね、俺も介護はまあしてたけど、食事とか掃除とかそんくらいだ。おふくろは近所のばあさんと話してたから、本当に何を考えているのか分からないんだ。半年前には俺と通りすがりのジジイとの区別も大してついてなかったから、多分おふくろの頭の中は核戦争後の荒野みたいだったんだと思う。
とにかく、俺はすぐに救急車を呼んだよ。どういうわけか警察もやってきたけど、あのときは慌ててたからな。あたり構わず電話をかけたのかもしれないな。
で、病院に行ったり葬式を開いたり、なんたらかんたらで家からおふくろの姿は消えたよ。残ったのは遺影と骨壷だけさ。それを居間に置いてぼーっと見てたらさ、なんか、虚しくなったんだ。
俺の人生、こんなものだったのかなー、ってさ。なんか昔を思い返しても大してぱっとしなかったし、会社もおふくろのために結構休みがちだったから、煙たがられてもいたし。
それでさ、会社辞めちまったんだ。復帰したときに辞職願って書いた紙を上司の机の上に置いてさ。誰にも止められなかったよ。だから本当に辞めた。なんであんなことしたのか、ぼんやりでよく分からないけどさ、多分また同じ状況になったら同じように紙を書くと思うよ。
んで、あとは流れに任せてパソコンいじって、自殺サイト探して、そしてあんたと巡りあった。ははは、素晴らしき運命だわな。まさしくくそったれに素晴らしいものさ。
ああ、あんたのほうは言わなくても良いよ。別に他人の過去を根掘り葉掘り探ろうとなんて思ってないし、今のは俺が言いたかっただけさ。
あー、なんか手足が震えてきた。一酸化炭素中毒って、こんなもんなんだな。もっと別なの想像してたよ。
…俺、さ。思うんだけど、本当に、どう、しようもない状況って、こんなことを、言うんじゃないのかな。
がんばってあがいて、も、絶対どうにもなんないし、誰にも、何にも、どうでも出来ない、こと。車んなかから出てもさ、俺ほんとに、当てもなにもない、しさ。
八方ふさがりっても、言うのかもなあ。……なんとなく、息しにくくなってきたよ。やだね、呼吸困難。
……いやはや、もう疲れたよ。ほんとに。俺だって、がんばってきたよ。でもさ、しょうがないじゃないか。本当に、どうにもできないことなんだからさ。あー、あたま回らなくなってきたかもしれない。
……あんたはさ、どう思うかなあ? 介護して、会社行って、料理とか、掃除とか、一生懸、命やってもさ、みんなは。まだ足りないと、思うのかな?
…そっか。あんたなら、そう言うと思ってたよ。
もう、眠たくなってきた。寝るよ俺。おやすみ、良い夢見ようぜ。
それじゃ。


何か書こうと思っても自殺物のネタしか思い浮かばないことに愕然。もっと幅を広げなくては…