舞城王太郎『NECK』講談社文庫、2010
続きです。今回は『the original』を。
【the original】:山中、首まで埋められた三人を飲み込む、焼け付くような夏の一日。
ねじり込まれるような中編でした。
舞台の原案として書かれた脚本&絵コンテを用いた作品。
アクションと会話主体なので、序盤はさらっと読んでいましたが、中盤から物語に引きずらるようになり、吹き飛ばされながらクライマックスを迎えて結末にたどり着きました。ごぢーんと、躍動シーンの度に頭と腹を一緒に蹴り飛ばされているようでした。一言で表すなら、人為的にどんどん難度が上がるジェットコースターの如き小説。活路を見出そうとする度に梯子が手から離れ、武器が壊れ、鉄パイプが足の甲に突き刺さり、縛る紐がきつくなり、床が滑り始めます。文章の脇に表示された絵コンテはコミカルな図柄ですが、状況が全然コミカルでないので、お化け屋敷に出現した通り魔のように現実味がありません。
前作の『a story』は「ええー……なにこれ……主人公かわいいけど……」という結論でしたが、今作は目的やシチュエーションががっちり固定されているためか、文章の疾走感があり、かなり快適に読める文章でした。原案扱いなので、キャラクター名とセリフ、それから抑え気味の背景描写と絵コンテで世界が展開されていますが、絵コンテの巧さもあり、文章付き漫画のような塩梅で読み込めました。これを映画化しても十分通じる気がするのですが、そこらへんどうなのでしょうかううむ。
首まで埋められた状態での闘争もアツイ(具体的になるとネタバレですが、戦い自体は相手にもハンディキャップがあるから成立するのかもしれません)。特に対ナタ戦とか車戦など、ちょっと想像してみたら首の血管がヒュンとなるようなネタが満載です。首から上しか動かない状況で、これくらいのアクションを演出できるのは本当に馬鹿馬鹿しく面白い。酷暑の中で三人が浴びる決死を思い浮かべると楽しくて仕方がないのですが、もし見物する際は二百メートルくらい離れて望遠鏡で覗いていたいところです。烏龍茶つきで。
終盤での最大トリックはあれ? とやや疑問も出てきますが、ノリで十分に納得できたので置いておくこととして。
真夏の半埋葬による設定を十二分に活かしており、破天荒ともカッ飛んだ展開と小道具は時間そして空間を忘れさせてくれるものでした。
これからももっと犠牲者には増えてもらいたいところです。
- 作者: 舞城王太郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2010/07/15
- メディア: 文庫
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