がらくたマガジン

小説を書いたり、読んだり、勉強したりするブログです。執筆者紹介  (復)=復路鵜執筆  (K)=春日 姫宮執筆

葬儀場にて(投稿者:復路鵜)

私が中学二年生の頃の事です。
私はその日、近くの大きな町にある葬儀場に居ました。
二日前に親戚の人が亡くなったからです。
私にとってその人はあまり会ったことは無く、亡くなっても対して悲しくはありませんでした。むしろ忌引で学校を休めて、ラッキーだと思ったほどです。勿論そんなことは他の人には言えませんでしたが。
葬儀はつつがなく終わり、次に火葬するので私達は移動することになりました。
その移動は車でも何十分もかかってしまうので、私はその前にトイレにいくことにしました。
葬儀場のトイレといっても他となんら変わりはありません。ごく普通の、小用の便器三つと個室が一つの、変哲もないトイレです。
私が用を足していると、小さく音がして誰かが入ってきました。
大方親戚の人か誰かが私と同じ目的で用を足しにきたのでしょう。私はそう思いました。
すると、その人は私の隣の便器に陣取ります。
便器が三つもあるのにわざわざ私の隣に来るとは、父か母でしょうか。
そう考えて私は隣をちらっと見ました。
最初は人違いだな、と思いました。似ている人にまちがえたのだろうと思いました。
けれど、顔を戻してからなんだか変なことに気がつきました。
何かがおかしいのです。何とも言いがたい違和感がありました。
もう一度、こんどは顔全部を向けて私は隣を見ました。
私の視線に気がついたのか、隣の人は私を見ると、「やあ、○○」と声をかけました。
私は声を出すことができませんでした。
その人は私が返事をしなかったことを疑問に思ったらしく、「どうしたの?」と声をかけてきます。
眩暈を起こしかけていることが自分でもありありと分かりました。
なんとか声を出そうとするのですが、口がぱくぱくと開くばかりで出てくる気配も見せてくれません。
その人は怪訝に思い始めたらしく、首をひょいと伸ばして私のほうを覗き込みました。その時の私はたぶん顔が青ざめていたと思います。
「どうして…」と、やっと声は出てきました。それでも掠れてはいたのですが。
当然その人は「ん?」と返してきました。いきなりどうしてと言われても分からないでしょうしね。
私は先を続けました。
「どうしているんですか」いつのまにか小便も出なくなっていました。
「そりゃ、小便をしにきたからさ。他に何があるの?」笑いながら、彼は答えます。
「だって、あなた」そこで声が途切れて、自分が言おうとしていることの異常性に気がつきました。そう、私は今常識から外れに外れたことを言おうとしています。
私はその人を最後に見たのは、ついさっきでした。
私は彼を見下ろしていました。
彼は棺の中に入っていました。
「もう、死んでるじゃないですか」
何とも言いようのない沈黙が流れます。
心臓が今まで経験したことが無いほど大きく脈打っていることが分かります。今私の目の前にいる彼の心臓は動いているのでしょうか。それとも止まっているのでしょうか。
もう怖くて彼の方を向くことが出来ませんでした。
もしも彼の目を見たら、憑り殺されるのでしょうか。それとも、彼が飛び掛ってきて私は生きたまま喰われるのでしょうか。
普段なら馬鹿げていると思える妄想が頭の中を飛び交いました。
でも、今は全く馬鹿げたものではありませんでした。
何時間も経ったのではないかと思われる頃、ようやく凍っていた空気が動き出しました。
彼は何も言わずにジッパーをあげると、手を洗って、無言でトイレから出て行きました。
扉がバタンと音を立てて閉まっても、私はその場から動くことが出来ませんでした。
十分か二十分経ったのか、両親が私を呼びに来た頃、私は動くことができました。
悲鳴をあげながら、トイレから私は駆けて行きました。
私は火葬も葬儀もこれ以上はたくさんだったので、無理を言って一人帰らせてもらうことにしました。
両親の話からすると、なんら問題なく全て終わったそうです。
でも、燃えた棺の中に亡くなったあの人は本当に入っていたのでしょうか。ひょっとすると仮死状態になって葬儀が終わった直後に目が覚めたのかもしれませんが、私には詳しいことはわかりません。
私が言えるのは、死んでいた人(葬儀の間だけでも)がトイレにひょっこりと現れ、私の隣で小便をしていったということだけです。
一体何故彼は私の前に姿を現したのでしょうか。
私に何か言いたかったのでしょうか。それとも何かしたいことがあったのでしょうか。
定かではありません。





というSSを作ってみました、こんにちは復路鵜です。
最近はなんとか忙しさも解消されそうな雰囲気があるので、SSもばりばり書いていくやもしれません。でも暇になったら暇になったでだらだらしているかもしれません。
まあ書いても上げるまでが時間がかかってしまいますけどねあはははははっ。
それではこれで。