がらくたマガジン

小説を書いたり、読んだり、勉強したりするブログです。執筆者紹介  (復)=復路鵜執筆  (K)=春日 姫宮執筆

リハビリ代わりにSSでも(復)

ごめんなさい、実に十日ぶりにこの日記に手をつけています(汗
という挨拶は置いておき、暫く忙しすぎてさっぱりSSを書いていないので、ちょっとリハビリ代わりに軽く書いてみました。大体7Kb程。お時間ある方はどうぞー。


『強盗』


 あーもう眠いなあ、と日方は思い、また大きなあくびをした。数えるのも億劫なほどあくびをしている。あたりまえだ、深夜の二時に誰も居ない店内に立ちっ放しなんて、あくびのオンパレードに決まっている。幾ら睡眠をとっていても眠くなるに決まっているのだ。
 どうにも体中がふわふわしているような感じがするし、頭の中もぼんやりとしている。店内には人の子一人居なく、存在してるのはレジでよれよれの制服を着用して立っている日方ただ一人。おまけに外を見れば真っ黒に塗り潰されていて、車の音すらかけらも聞こえてこない。賭けてもいい、あと二時間は誰も来ないだろう。
 事の起こりは今日(厳密にいえば昨日か)の夕方頃、アパートにかかってきた電話だった。何の前触れもなく鳴り出した電話を雑誌片手にひまをつぶしていた彼は取り上げ、返事をしてしまった。あの時あんな電話に出なければこんなことにはならなかったのにな、と思った。
 『日方くんか?』挨拶もなしにそう切り出してきたのは日方が勤めているコンビニの店長の声で、どことなく焦っているような様子だった。はあ、と気のない返事を返すと、店長はこんなことをのたまった。
 『頼む、今日の深夜一時からのシフト、日方くん出てくれないか? 担当しているのがいきなり来られなくなったと言ってきて、他も捕まらないんだ。本当に頼む、手当てはきちんと出すから出てくれないか? 君以外に出てくれるのが居ないんだ』
 こんなことを言われて断れる筈もない。用事も無かった彼は渋々引き受けた。とはいえ手当てはきちんと支給されるみたいなので、思わぬところからの儲け話のようなものだと割り切ることにした。これに出れば、いつもよりも多めに給料を貰えるのだ。
 そういうわけで日方は寝だめの為に布団に丸まり、夜の十二時ごろに住宅街近くのコンビニへと足を運び、今に至る。
 雑誌でも読んでいれば時間は潰せるだろうが、まさか店員がサボって本読んでますなんて客に知られたらたまったものではない。コンビニの売り上げは落ちるだろうし、もしその人物が日方と特定されれば、首ちょんぱも有り得ない話でもない。
 仕方ないので、在庫整理でもして眠気を潰すことにした。他の手伝いもいないため一人きりでやるしかないが、まあ他人に気を遣う心配が無いから、その点は楽かもしれない。
 体を捻って軽く関節を鳴らして、日方はパンのコーナーに近づいた。棚の前に立ってパンを手にとると、腹が減っていることに気が付いた。そういえば出る前に食ったのは菓子パンひとつだけだった気がする。あれから二時間ほど、そりゃ腹も空くか。
 首を捻り天井のほうに目を向けると、どこのコンビニにでも設置されていそうな監視カメラが見えた。いつも思うのだが、この監視カメラは本当に作動しているかどうか疑わしい。なにせまったく音は立てないし、範囲を広げるために軽く首を動かすということもない。何か不測の事態が発生すれば録画してある映像が役に立つのだろうとは思うが、こうしてみるとただの木偶の坊だ。
 ため息をつきながら腹を押さえて立ち上がったときだった。
 背後で何か擦れる音がした。それから外の冷たい空気が入ってきて、日方はようやく客が来た事に気が付いた。いらっしゃいませ、と言い掛けて彼は振り向いた。
 凍りついた。
 その客はヘルメットを被っていた。誰しもがバイクに乗るときに被っていそうなそれを入店してきた人物は深々と被っている。まあ、それはまだいい。急いでいるライダーか何かが店内に来て、さっさと物を買ってさっさと出て行くのだろうと思えば説明がつく。例え相手がただの黒シャツにジーンズといった出で立ちだったとしても。
 だが、だとしたら、今目の前のそいつが持っている包丁にはどう説明をつけたらいいのだ。
 黒い手袋をしたその手が握っているのはどこの家庭にも置いてありそうな包丁で、蛍光灯の光を浴びて病的なまでに刃は白く光る。その刃は日方に向けられていて、それは非常に危険なものを日方に連想させる。目の前の相手が自分に包丁をつきつけていのはどういう意味か、つまりはそういうこと。
 包丁を持った男はコンマ一秒の遅れも許されないという風に、ずんずんと大またで棚のところに近づいてくる。それにともない包丁も急激に近づいてきて、今にも突き刺さらんばかりだった。
 ヘルメットは日方の前に来て、包丁を持っていないほうの手を出して、日方の眼前に出した。
 それはスケッチブックで、定規で弾いたような線が組み合わさって、幾何学模様のように見える。ヘルメットがずいと更にスケッチブックを近づけてきて、『金出せ ころすぞ』と書いてあるのがかろうじて読み取れた。ただ、それだけでどうしようもなかった。足がすくんでいた。
 喉からひゅうひゅうと息がもれてくる。入り口のガラス戸に写った自分の姿は棚に寄りかかった状態でいて、苦笑いのような表情を浮かべていた。ははは、まあ落ち着けよあんた。
 一秒か二秒か、日方がそのままの状態で居ると、男が片手を振り上げた。包丁を持った手だった。
 死ぬんだ、と思った。俺はここで死ぬんだ。死んで刺されてバラバラにされて細切れにされて微塵にされて生ゴミみたいになって生ゴミ生ゴミ生ゴミ――――――――――
 がつんと頬に衝撃が来た。勢いで日方は横に倒れ、陳列してあったパンやおにぎりや弁当等が転倒に巻き込まれてどさどさと落ちた。頭の中を黒と白でごちゃごちゃにしながら起き上がると、ヘルメットはあらためてスケッチブックをつきつけてきた。
 今度は体が動いた。ふらふらとした足取りで立ち上がり、日方はレジの方まで歩いた。カウンターの中に入る前にヘルメットに突き飛ばされ、また倒れた。ヘルメットは抵抗する気力を無くそうとでもしたのだろうが、日方にはヘルメットを被った男が包丁を自分に突きつけてきたその時からそんなものは無かった。というより、今でも何がなんだかよく理解ができていなかったと言っても良いかもしれない。
 立ち上がると目の前に掃除用のモップが見えたが、日方は手を伸ばそうとしなかった。モップで殴りつけるとか他に何かをしたところで、自分の胸に包丁が突き刺さって血の海の中に倒れているという妄想しか浮かんでこなかった。前に死ぬほど酒を飲んで頭の中が豆腐みたいにぐにゃぐにゃになった感覚を体験したことがあったが、あれにちょっと似ている。
 レジを開ける。何枚かの紙幣とたくさんの硬貨が入っている。日方が手を伸ばそうとするより前に強盗の手が伸びてきて、紙幣や硬貨をひっつかんでジーンズのポケットの中につっこんだ。あらかたとり尽しても強盗はレジの中を探っていたが、もうお金が無いことが分かると、日方にまた包丁とスケッチブックをつきつけた。畜生、俺が金をどっかに隠したと思い込んでるな。
 何度も強盗は包丁とスケッチブックを交互につきつけたが、日方はただ両手をあげ、アメリカ式の降伏ポーズを繰り返しただけだった。私は何も持っていません、どこにも隠していません、信じてください。くそったれ、だから早くどっかに消えちまえ。
 強盗を挟んで向こうに監視カメラが見えたが、今はあのカメラがハリボテでなくて本当の機械だということを信じるしかなかった。最初にカメラについて何か注意とか説明を受けた気がするが、さっぱり思い出せなかった。ひょっとしたら本当にハリボテなのかもしれない。
 次第に強盗はヒステリックになってきた。足でがんがんと台を蹴りつけ、やたらめったらに包丁を振り回し、だだをこねた子供のようにも見えた。思わず日方は笑いそうになったが、もし笑ったらどうなるかなんとか理解できていたので笑わなかった。
 一分か二分経過して、やがて強盗は本当に金がこれだけしかないことを分かったようだった。スケッチブックを下ろすと、今度はレジの方に回り込んできた。そうしながら強盗は包丁を振り上げた。日方は自分を守ろうと手を上げなかった。上げても無駄だということが分かっていたからだ。
 殴られる数瞬前、日方はヘルメットに守られた男の顔の中にある、両目が見えた。
 それはとても血走っていて、ニスを塗りすぎたようにぎらぎらと光り、およそ彼が見てきた人間の中とは違っていた。以前テレビで見たドキュメンタリー番組に出てきた、何日も獲物にありつけず餓えたトラのような目だった。確かに、追い詰められた獣という形容がしっくりくる。
 今度は頭を物凄い衝撃が走りぬけた。目の前で火花が飛び散り視界が真っ白になって、日方は床に崩れ落ちた。
 気を失うほんの少し前に、ヘルメットを被った獣が店から出て行くのが微かに見えた。


オチが無いですよー、という突っ込みがいつやってくるかもう戦々恐々で仕方ありません。
まあ、空き時間の二時間ほどでちゃっちゃと書き上げたものなので、あんまり細かいものが出来ていないかも。うーん。
どちらかと言うと、私はプロット組み立てて伏線入れて、というような書き方よりも、突発で行動したほうが書きやすいのかもしれません。
あと、忙しい時期がもう少し続きそうなのでまた暫く日記を書くことが出来ないかもしれません…閲覧してくださる方、申し訳ありません。とりあえず凍結はしないようにがんばりたいと思います。