がらくたマガジン

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川の深さは(福井晴敏)

※作品の内容に関するネタバレが含まれています※


 作家の福井晴敏氏の処女作です。厳密なデビュー作品は「Twelve Y.O」になりますが、「川の深さ」は江戸川乱歩賞の最終選考に残り、敢え無く落選してしまった作品を書き直したものです。
 福井晴敏氏の書き口自体が非常に重厚なものであるため、自然と内容もハードな文体が占めるものとなります。軍事や医学、警察関係の専門用語(とは言っても初歩的かつ、説明もつけられていますが)もビュンビュン乱れ飛ぶので、慣れない人はそれなりに苦労するかもしれません。
 解説において豊崎由美氏がアクション小説でありながら人間ドラマとして仕立てていると書いていますが、私にはむしろ人間ドラマのスパイスを簡単にまぶした冒険小説のように見えました。特に後半は元マル暴デカの主人公と元秘密工作員の相棒がアパッチに乗り込んで東京上空をかっ飛ばすシーンがあるのですが、全く軍隊の訓練を受けていない中年男がそんなものに乗って超高速で疾駆しても後遺症やらムチ打ち症やら発症しないのかと疑問を覚えてしまいます。とはいえ、そうした疑問を取り除けば単純な娯楽小説として楽しめます。
 また、「川の深さは」というタイトルの如くそれが題目となって描かれています。描かれているのですが、やっぱり浅い印象があります。もっと他の比喩でもいけるんじゃないかとか、主眼がややズレているんじゃないかとか、やや浅薄だという考えを抱いてしまいます。福井晴敏氏の作品の主流テーマとして現代日本に対する問いかけがあらゆる角度で成されていますが、それに対する作品内での回答も極めて曖昧かつ抽象的であるため(小説という媒体ではある意味、こういったものが限界ラインかもしれないのですが)、他の作家と一線を画したというわけでもないよう見受けられます。
 この作品においてはダイスと言った架空の組織が登場していますが、これらの組織は後の作品である「Twelve Y.O」や「亡国のイージス」にも出てきているようです(前者は未読ですが、作中のコンピュータウィルスに酷似した名前のウィルスが使用されていると紹介にあるため)。また「終戦のローレライ」も読んでいませんが、もしかすれば片鱗を覗くことができるかもしれません。
 とりあえず次は「終戦のローレライ」を読む予定。

川の深さは (講談社文庫)

川の深さは (講談社文庫)