がらくたマガジン

小説を書いたり、読んだり、勉強したりするブログです。執筆者紹介  (復)=復路鵜執筆  (K)=春日 姫宮執筆

田中ロミオ『人類は衰退しました7』ガガガ文庫、2012

:かのアニメ化作品の新作が! 絵も新しい! キャラクターはいつも通り! あっ主人公の女の娘かわいいです!

 学校を作ります。あまり叱り過ぎると人格が変容して将来的に悪影響を及ぼしかねないので子供は甘やかします。先生(わたし)はこびへつらいます。そのうちマジギレした先生(わたし)が子供とガチバトルに挑みます。あと、クスノキの里が壊滅しちゃいます。そういうお話が、盛りだくさんです。二つあるので、かたっぽずつ、見て行きましょう。


妖精さんたちの、ちいさながっこう』
:ミニ学校におけるプチスクールウォーズかと思ったら、事態はもう少し大きくなります。序盤ではイイ感じに力が抜けたギャグに笑い、間の抜けた描写にクスクスするのですが、だんだんと底が深くなっていって、笑いが消えていきます。学校を作るので、生徒としてやってきた子供はAとBとC。先生になったわたしがいろんな人達(久しぶりの人も、います)を巻き込んで授業をしようと努力するのです。話の中身は牧歌的で(多分このシリーズを一言で表すなら、そういう単語が相応しいのでしょう)のんびりしているようで、どこかに小さな棘が含まれています。そして話が進むにつれてチクチクする感じが強くなっていって、最後は布で覆っただけの、恐ろしい突起物のように見えてきます。
 そうした裏腹な感情があるのですけれど、全体的にわたしの語りはほんわかしたものですし、表紙を見ればお分かりの通り、草花は豊かで自然も穏やかに、とろりとしたものに見えます。けれども、ゆるやかに衰退している世界そのものを表すのは、やはりわたしの語りがぴったりなんだな、と思います。そのうち、羊が集まって昼寝するように、残り一人が消え去る様も語られる予感すらします。まあ、妖精さんがいるので、もっとシッチャカメッチャカに、一歩進んで二歩上がるみたいな事態になるのでしょうけど。
 今回は、大人と子どもの話が、諦めがついた者と、どうすればいいのかも分からない者の話が出てきます。ちょっと引用。
『衰退だなんだ、知ったことじゃない! こっちはまだ子どもなんだ! これから生きていかないといけないのに、ぜんぶ終わったみたいに言うな!』
 そうなのです。人間世界が死にかかっていることなど、子どもにとってはまだ分からないし、どうでもいいのです。子どもはただ、毎日の生をひもじく苛烈に生きねばならず、怒りながら泣きながら、背中から突き飛ばす力に従って前のめりに動かなければならないのです。その激烈な感情が完全な諦観に変わった時こそが、本当の意味での危機なのでしょう。その道の果てには、死よりも尚汚らしい結末が待ち受けているに違いありません。
 クスノキの里のみならず、他のいろんな場所でも、里でも、子どもの現状なんて同じなのです。わたしや周りの人は元気にキャーキャーやっていますが、全体的に見ればもう敗戦処理状態。千億対零で負けつつある人間チームは、もう色々なものを手放さなければならないのです。こうした事を改めて気付かされました。リズムはのんびりして軽いのですが、その感じは、諦めて、投げ出した軽さにも繋がるんですね。絶滅予定種。
 もちろんこのお話にも答えは用意されています。けれどそれが正しいのかどうか、そもそもどうやって正しさを決めるのかは分かりません。置いていかれた人は、置いていかれたなりに努力をしなければなりません。しかし私は、その答えをもとに、とりあえず足掻いてみようとするその姿を見て、ちょっと胸を撫で下ろしたのです。
 ただ難癖つけるとすれば、作中で発生した現象の原因に対する理由付けが、もう少し欲しいと思いました。ちょうど、パズルの最後のピースにちょっと傷がついてるので、もっと良いピースは無いかと辺りを探しまわるように。そう思いません? そうですか。


『人類流の、さえたやりかた』
:島スタート、ではありませんが、夜空スタートと言うべきでしょうか。記憶障害を患ったわたし、不鮮明な感覚、度重なる謎の交信。まさに謎だらけの夜語りが幕を開けます。個人的に一番ショックだったのは、クスノキの里が踏み潰されたりふっとばされたりして、復興まで何ヶ月もかかるような状態になったことですね。慣れ親しんだ場所が虫の死骸みたいに潰されるのを見るのは、ちょっとショック。
 なかなかにミステリアスチックで、陰謀的な香りもしてきますが、それでものんびりとした、あらあら大変、という感じのする文章なので、それほどの危機感は感じません(三巻では遭難してこの人らマジで死ぬんじゃないでしょうか、と残りページを確認しながらヒヤヒヤしましたが、それは置いておきましょう)。ですが私は、この話を楽しく読めました。ひと粒で二度おいしい、一度読んで読み返すと更に面白い面白い。四度目五度目は未だですが、もしかしたら面白いかもしれません。お気に入りのシーンはわたしが妖精さんと合流して、せっせと武装したり物資を集めたりする場面でしょうか。戦略シミュレーションを彷彿とさせてくれるシーンですが、ここでわたしがピンク甲冑を着込んでるわけなんですけど、冷静に考えたら滅茶苦茶目立ちますね。夜に進撃する場合とか特に。あと挿絵ですが、スカートさんとか可愛らしいです。おばか! いいですよね、おばか。ハッとさせられるのですが、馬鹿者とか糞馬鹿みたいに、メタメタに踏みつけられる感じはしません。お手軽初心者用マゾヒズム体験コース、みたいな。そう思いません? そうですか。
 おどろおどろしさすら感じさせる、ハイ・サスペンスって感じなのであんまり書くと緊張感を損なってしまうかもしれません。なのでこの程度にしようかと思いますが、ふと気になった事が一点。クスノキの里でPDAが出てきたり、わたしや旧友(多分親友ではない)Yが平気の平左でプログラムを操っている所に、少々アレッとなりましたが、よく考えたら前々からプログラム関連の叙述はあったのですね。いきなり人間が再進化しちゃった、と思ったのですが、杞憂でした。そうそう、それと国連のエージェントK(♀)が出るのですが、私服姿も見てみたいのです。

人類は衰退しました 7 (ガガガ文庫)

人類は衰退しました 7 (ガガガ文庫)