がらくたマガジン

小説を書いたり、読んだり、勉強したりするブログです。執筆者紹介  (復)=復路鵜執筆  (K)=春日 姫宮執筆

平山夢明『暗くて静かでロックな娘(チャンネー)』集英社、2012

全五回予定の第三回です。

こちらの日記についてなのですが、ゲームの感想関係で飛んでくる人も多いようなので、またテキストゲームやフリーゲームの感想を書いた方が良いのでしょうか……! でもパッと思った時に参照しにくいので、若干書きにくいのです。どうしましょうかね。


『ドブロク焼場』
:葬儀場から物語は始まる。火葬、骨揚げ、遺族への説明……憂鬱な仕事を引き受ける《俺》は、平行して昔のツテを利用し、お笑いの世界へと入っていく。同僚のチョンベとコンビを組み、二つの世界を行き来しながら、俺はやがて、同僚にまつわる、痛ましくも虚しい話を耳にする……
 薄ぼんやりとした心情のうねり、叙情の散文めいた匂いが漂い始める作品です。これまでの氏のベクトルとは異なり、別種の種を育て始めたような印象を覚えます。葬儀場とお笑いという、かくも正反対な陰陽の世界をつなぎあわせた発想には脱帽します。一方が上がれば一方が深まり、一つが薄くなれば一つが濃くなっていく――感情と異なりすぎる世界のコントラストを交えながら、ずりずりと重すぎる荷物をひきずるように物語は進んでいきます。どこかしら秋めいた、冬めいた寒さを湛えながら流れてゆく作品は面白さや楽しさというより、人に何かを感じ入らせることを目的にして作られた、生きた代物のようでもあります。B級映画の廃れた感じと、鯨のように壮大な何かを想起させながら、ついついと紙面を滑っていく代物。コントで出てくる下ネタや、古いと感じるようなネタもむしろ氏の味となって、どこかしら葬儀場へと返ってくるものがあります。相反する二つが終わりを告げた後、何か言葉に残しにくい……えぐみ、あるいは喉越しを感じることがあります。

『反吐が出るよなお前だけれど……』
:乞食の俺は飯をめぐんでもらうためにとあるラーメン屋に入って……絶句! 老夫婦が店をやっているラーメン屋は味がどぶどろのどろどろのどろどぶましのどろぶろのどろどろどろろ……の化学調味料たっぷりの破壊爆発悪魔大王悲惨残虐死絶殺人ラーメンであり、老夫婦は日がな一日お互いに死ねやら糞やら自殺しろとか死んでくださいに糞野郎と屑野郎が混じった悪口を言いまくる! 俺は出されるままどろぶろの(略)破壊神ラーメンを食い、「まずっ」ゲロ吐いて気絶! そしてよくわからない経緯で俺はラーメン屋を手伝わされる事になり、どろ(略)の人殺しラーメンを試食させられる! 毛が抜ける! 腹がでっぱる! 吹き出物が出来る! 直ちに人体に影響が……出てるじゃねえか!
 とにかく言葉のバリエーションが凄いです。悪口は煎じ詰めれば辞書が一冊できるぐらいの分量であることは承知していましたが、ここまで突き抜けたり広げたり深めた悪口大会は他にないと思われるほどです。死ねを広げればこんなことになるのか! そして殺しても死なないようなゲテモノ老夫婦(褒め言葉)がべえべえ言い放ちながら滅茶苦茶ラーメンを作る様が面白くてかっこ良くて癖になりそうです。楽しい。半分頭がおかしい世界ながら、自分がそれに浸かったり「あっちょっとこのラインまずいな」と出てはまた入り、ウヒヒと笑いながら怖いもの見たさで恐る恐る戻る……文章の名を冠した我慢大会みたいな作品ですが、楽しいので良しとします。個人的にお気に入りのシーンは、爆弾魔ラーメンを食った英語の成績2の男が「ほおりぃしっと!」と叫びながら転がる場面。がっでむ……! こいつ英語脳になったぞ!
 あとこの作品を見ていて思ったんですが、『世にも奇妙な物語』にたまに出てくる、ネジが外れたような飛び抜け成層圏突破型のコメディとかがありますが、あれに毛色がやや似ています。冗談では済まされないラインをあえて冗談にしちゃったり、やけにタフガイな連中がジョークみたいな武器で戦ってたり、現実から一歩も二歩も遊離しちゃってたりして、フシギな感触! です。見かけと匂いはゲテモノそのまんまですが、味は意外に素直な超ラーメン、割りとおすすめです。

暗くて静かでロックな娘

暗くて静かでロックな娘