がらくたマガジン

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小津端うめ『春を待ちながら』――傷だらけの二人(復)

小津端うめ『春を待ちながら』千秋小梅うめしゃち支店、2018を読んだ。同人誌である。続き物で、三作目だ。

 

 

あらすじ:フリーターの良一は、診療所に勤めている友人の用事で、こるり市の診療所を訪れる。そこで事務をしている早苗と出会うが、彼女が、病院の分院長候補の内坂に暴力を振るわれる現場を目撃してしまった。早苗は無表情にされるがままだ。元来おとなしい性格の良一は内坂に強く言えず、消極的に割って入るしかできなかった。良一が良心の呵責に悩む中、早苗は自分の過去を語る……

 

『春を待ちながら』では何人もの登場人物がいる。そしてそれぞれの人物が群像劇を作り出す。何人もの人間関係を作り続けるのはかなりの労力がいる。56ページと話も長いので、なおさらだ。今回はメインの二人、良一と早苗にスポットを当てた。

 

良一と早苗は出会いからしてドラマチックだが、あまり彼には強い行動が取れない。良一はそもそも別件で病院を訪れているので、内坂によるハラスメントを目撃した、全くの外部者である。その場で警察に通報するなり、別な方法も取れたが、彼は気弱(優しいともいう)であるため、早苗をその場から連れ出すことしかできず、自己嫌悪に陥っている。それどころか、早苗が殴られたショックで嘔吐してしまい、それを見た良一はいっそう狼狽えてしまう。

 

しかし良一の中に、無抵抗に暴力を受け入れた早苗を見て芽生えるものがあった。早苗と連れ立って向かった先で別のいざこざに巻き込まれるが、彼は割って入って守ろうとする。「どうして口を挟んだの?」と無表情に尋ねる早苗に対して、顔を赤くして良一は口にする。

 

「目の前で起こることから守りたいと思うのは、おかしい?」

 

その言葉で早苗は目が覚める。客観的には消極的な向き合い方だろうが、それでも良一にとっては精一杯アグレッシブな行動だったのだ。戦い方は何通りもある。ただ敵を倒して断ずるだけが正義とは限らないのだ。

 

良一は消極的に振る舞う自分を「俺も弱い人間だけど、」とする。彼自身も、自分の至らなさは承知している。しかし、だからこそ、これまで虐げられてきた早苗にとっては、心に通じるものがある。さまざまなプロットが錯綜する話の中で、良一と早苗のシーンが土台になって作品を支える。静的に支え合う二人がいるからこそ、動的なクライマックスがより映える。面白い作品だった。

 

《終わり》