がらくたマガジン

小説を書いたり、読んだり、勉強したりするブログです。執筆者紹介  (復)=復路鵜執筆  (K)=春日 姫宮執筆

Stories2の感想


私達の旅路より 広瀬凌さん
 恬淡とした舞の語り口のせいか、他に類をみない独特の空気が流れている作品でした。
 1年経っても、10年経っても、50年経っても繰り返し目を閉じ夢を見る先に、祐一がいた。
 最後まで登場しないと思われていた彼がここで登場する意味をどう捉えるか、これだけの情報だと広瀬さんの意図をはっきりと読み取ることはできませんが推測してみるに……
 真琴の願いが叶った、と語られている以上、おそらく祐一は一時期水瀬家に来ていたはずです。しかし、選ばれなかったと書かれているので、おそらく真琴シナリオに進まず。他の誰のシナリオにも進まなかったのでしょう。栞が「どこか遠くへいってしまっても」と発言しているので、彼は何もせずにこの街を去ってしまったのだと思われます(どのシナリオにも進まなかった場合、名雪とくっつきそうな気もしますが)。
 美汐や佐祐理が結婚して、舞や名雪が結婚しないのは、彼女たちが祐一を待っているからだと思います。おそらくあゆも待っているのでしょう(流石にあの状態で57年も生き延びられたとは思えませんが)。
 その姿は不幸に映るかもしれません。しかし、真琴は幸せだった。栞も幸せだと言った。たぶん舞や名雪やあゆもそれぞれの幸せにたどり着いた。
 そんな物語のように感じました。


あの空の下で へっきーさん
 うめぇ。
 なんだこの文章力……。
 いやもう、なんていいますか脱帽でした。見事です。
 美汐+さわやかさ+文章力で、この界隈の人なら誰もが知っているであろう古典的名作、「メアリーに祝福を」、を思い出しました。
 いや、実際あの名作に匹敵するくらいのデキですって。ひいき目抜きにこんぺで1位を狙えるレベルです。
 もっともっと読みたい。でもここで話を閉じるのが正解な気がする。もどかしいまでに美しいこの作品、間違いなく私の心に刻まれました。
 これでも少なくとも5000以上のKanonSSを読んでる身ですが、美汐SSの中でこの作品は私的頂点かもしれません。


青空の見える場所まで出かけよう じぎーちゃん
 あれ? これじぎーさんのSS?
 凄い思い切ったなぁ。
 これまでのじぎーさんのお洒落な文体を捨てて、良い意味で素人っぽい文章になりましたね。
 第二回かのんこんぺに出した最初の作品よりも文章に飾り気がない。
 でも、そこが凄くいいんですね。
 例えるなら、上手に化粧してた彼女が化粧を落として現れたが、笑顔はかえって素敵になってノックアウトされた、みたいな。
 ああこれ、じぎーさんの書いたSSの中で一番好きかも。


届かないユーフォリア アルエムさん
 今回なぜかさゆまいSSが多いのですが、みょーにしんみりした話が多い中で、祐一がいないながらも明るく楽しく、しかもしっかり物語しているこのSSはいい意味で目立っていました。
 特に、ちびまいとしっかりよろしくやってるとこに「届かないユーフォリア」どころか十分届いちゃってるやんけ、と思わずツッコミを入れたくなるくらい、舞の前向きさを感じます。
 舞が先に進もうとすると何で佐祐理が大学を休みたくなるのかよくわからいのですが、まあ佐祐理さんだから(笑)ですね。
 奇をてらわず、夏らしい爽やかな作風が楽しめました。
 たまたま気になったのですが、「鑑みる」の使い方はおそらく「省みる」と混同しているので、そこは確認しておいた方がよいかと。


ネージュラパン えりくらさん
 私のSSの前にこのSSが配置されたのは、編集者の悪意なんだろうか。
 思わず意味不明な悪態を付きたくなるほど名作でした。
 つーか、今回どれもこれもヤバイくらいに気合いが入りまくってて、こんぺなら10位以内に入れるクラスの作品だらけなんですが、そんな伏魔殿の中にありつつもこの作品と「あの空の下で」が補完+アフターの双璧として突出してます。
 だからなんでこんな名作が私のSSの直前に置かれてるんだーっ。
 今回名雪SSが少なめなのがちょっとがっかりなんですが(当然全部名雪SSになると思ってました)、どれも非常にレベルが高いですね。
 そんな中でも、このSSが今回の同人誌中、名雪SSの最高傑作でした。BADエンドアフターものとしては、この本に限らず私が読んだ全てのSSの中でトップクラスです。一個だけこのSSに匹敵するレベルの作品を読んだ覚えがあるので、その作品と同率一位くらい。
 え? なんかさっきから全然褒められてる気がしないって?
 やだなあ。嫉妬なんてしてませんってば!


まい・めりー・けろぴー 春日 姫宮
 自作ですがちょこっと解説(しなくてもいいような作品を書いてみたいものです)。
 いわゆる「補完モノ」のSSです。
 舞台は名雪が祐一にフラレた直後、1992年の3月頃〜7月頃です(Kanonの舞台は作中で1999年と明示されているので逆算しました)。
 どうしてこの時期の祐一が名雪と会話するかという点を疑問に思うかもしれませんが、これはあとがきでも仄めかしているんですが、祐一は相手を「あゆ」だと思って会話しているからです。
 それを示唆する表現を段々濃くしていって、どこかで「アッ」と気が付いて欲しかったのですが、気が付いて頂けたでしょうか?
 祐一はあゆとの出来事を忘れてしまうので、ここでの名雪とのやりとりも原作中では忘れている、という設定で書きました。
 タイトルとオリキャラには元ネタがあります。わかりやすいもの、わかりづらいものがありますが、他にもけっこーネタを仕込んでいます(笑)。
 原作の表現を入れてみたり、ああSSのこの部分は原作にこう繋がってるんだなというようなネタもかなり入れてみましたので、我こそはと思う原作フリークの方には気付いて欲しいところです。
 後半の理屈はちょっと解りづらかったかもしれません。
 祐一に一方的に告白して傷つけてしまった名雪は、反省して自分のことだけではなくて他人の役に立ちたいと思うようになった。
 しかし、他人との関係はうつろい、誰かの役に立とうという気持ちを抱きつつも、究極的には自分が秋子の支えとなって、また支えられるしかないのかなと気が付いてしまう。
 そこを受け入れたけれど、(秋子は名雪より先にいなくなってしまい、やがて自分は独りぼっちになってしまうという恐怖が根底にあって)そんな自分を変えてくれる人を本当は待ってる。
 そんな風に名雪を解釈したことが下地になっています。
 彼女、部長になったり、他のシナリオでは祐一の力になろうとしたり、あゆや真琴、香里に対しても優しかったり、押しつけがましくない献身が行動の中心にあると思うんですよね。その理由はやはり、7年前の出来事にあったのかな、と。