がらくたマガジン

小説を書いたり、読んだり、勉強したりするブログです。執筆者紹介  (復)=復路鵜執筆  (K)=春日 姫宮執筆

渡辺浩弐『令和元年のゲーム・キッズ』――寿命制限時代の人間。それからゲーム (復)

渡辺浩弐『令和元年のゲーム・キッズ』星海社FICTIONS、2019を読んだ。

 

 

令和元年のゲーム・キッズ (星海社FICTIONS)

令和元年のゲーム・キッズ (星海社FICTIONS)

  • 作者:渡辺 浩弐
  • 発売日: 2019/07/16
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

いくつかの前提の上に成り立ったショートショートだ。前提は以下の通り。

 

・政府によって市民の寿命は五十歳に制限されている。五十歳になれば法定寿命を過ぎたとして、市民は処理施設に連れて行かれて安楽死させられる。

 

・反対に、五十歳になるまでは人権、生活保障が約束されている。

 

・時代設定は、ソシャゲー、ガチャ、スマートフォン、ドローンが存在する、いまから(たぶん)百年後ぐらいの世界である。

 

収められている作品は三十一作のショートショート。一作は6~8ページほどなので、読みやすい。読みやすい上で露悪的なほど残酷な作りになっている。

 

ポップなカバーとは裏腹に、恐ろしく簡単に人が死ぬ。『五十歳を過ぎたら安楽死』という条件の元で人々が苦しみ、あがく。エンディングの理不尽さはバッドエンドを思わすほどだ。人間、おかしくなろうと思えばどこまでもおかしくなる。

 

気に入った作品は『ふしょうの息子』、『完全なるアイドル』、『不完全なアイドル』、『人生ガチャ』、『自殺はやめよう』、『学校のヴァンパイア』、『自分ゲーム』だ。幾つか寸評を挙げてみたい。

 

 

『ふしょうの息子』

引きこもりの息子、部屋、そして母親……これだけしか出ていないのに、話の内容に強い説得力がある。おそらく息子の視野の狭さと傲慢さによってこの状況が成り立っているのだろう。読んでいて「うわっ……」と言ってしまうほど強い話で、最後が予測できても鳥肌が立つ。ここまで書き抜く作者の技術力がすごい。

 

『自殺はやめよう』

ドキュメンタリー形式である。自殺したい三人の男女がいるが、それぞれの辿った自殺方法や、生命をまさに物質そのままとして扱う様に、ある種の神聖さとも空虚さともつかないものがにじみ出てくる。設定をうまく使った例でもある。自殺はやめよう……

 

『自分ゲーム』

発想の勝利である。ヘッドマウントディスプレイ+ドローンというのは考えつかなかった。タイトルが『ゲーム・キッズ』なのでもちろんゲームに関連した出来事が起きるが、発展の仕方が面白い。フィクションの悪影響だ。

 

『誕生プレゼント』

とにかく前半と後半の落差がすごい。バーチャル設定の広げ方が面白いが、それだけでないパンチを食らわされてしまった。このまま現実世界には入ってこれないだろうが、いくつかを修正すればやがて実現するかもしれない。

 

『人生ガチャ』

五十歳まで生きられる社会の、五十歳で終わる人生の悲惨さがにじみ出る。医者と元野球選手の話だが、高校までは同じ道だった友人二人は、違う道を歩き始めてから、ずいぶん異なる人生を進むことになった。ここに詳らかになるのは、時間を強制的に区切った人生のいびつさと、それに応じきった人間の奥底だ。

 

他にもまだまだある。老人の終末を描いた『献体』、VRアイドルが活躍する『完全なるアイドル』、SNSの面倒臭さを消去してくれる『人間関係リセットスイッチ』もあり、どれも読んでいて面白かった。

 

また、全作品には頭書にQRコードが設置してある。コードを通してYoutubeから作品の執筆風景を見ることができる。私は『人生ガチャ』を見たが、作者が思いつきを基に執筆していくのを見るのはなかなか刺激的だった。本を持っていない方でも、Youtubeで『渡辺浩弐のノベライブ』と検索してくれれば観られるので、ネタバレにはちょっと注意しながら視聴してほしい。

 

 

ちなみにこの作品、前まではamazonで見たら絶版だったが、いま見たら在庫ありになっていた。こんなに時代を先取りしてるので、電子版を出してくれるのが楽しみ。DLC特典として、ボツネタが読めたり、後日談が追加される……とかだと、なおのこと嬉しい。

 

《終わり》 

平山夢明『ヤギより上、猿より下』――誰も追随できないユーモア、展開、エンディング (復)

平山夢明『ヤギより上、猿より下』文春文庫、2019を読んだ。

 

 

ヤギより上、猿より下 (文春文庫)

ヤギより上、猿より下 (文春文庫)

 

 

 

短編集だ。四作品が収録されており、初出は『オール讀物』である。「よくこんな作品を雑誌に収録できたな……」と思うほど凄まじい作品だらけで、一作品を読むのに何度も休憩する必要があった。以下にタイトル別に感想を載せたい。

主人公はタクムという小学生だ。家で父が母を殴る。タクムには妹がいる。アヤだ。タクムはアヤに幸せになってほしいと思っている。父は母をひどく蹴ったり殴ったりするが、子どもには手を出していない。

 

しかしある夜、虐待される母を見てタクムに火がついた。タクムは父の足にしがみついたのだ。弾みで父はタクムを蹴り飛ばした。ルールは破られた。タクムとアヤはじきに死ぬだろう。タクムの前に、外国人が現れる。アレキサンダル。ある条件と引き換えに、父を消してやるとタクムに告げる――

 

淡々と絵本調のように語られるが、内容は怖気を覚えるほどの虐待に関する数週間ほどの話だ。舞台は下町で、地味な町並みと不気味なほど戯画化された人間のつくりが、作品の不条理さを高めている。短編だが、気まずさと疲労感、終わりに訪れる一筋の光には、読む価値がある。

 

『婆と輪舞曲』――DANCE WITH GRANNY

婆――ババが「俺」を養っている。会社が倒産して無職になってしまった俺に、ババが仕事を持ちかけてきたのだ。金払いがいいので、俺は探偵の世界へ飛び込んだ。

 

ババの娘は行方不明になっている。が、三十年前の出来事だ。しかもババのいうことにはホラが多く、話にもつじつまが合わないので、調査は苦戦する。警察に睨まれ、周囲から白い目で見られる。しかしカネをもらっている以上、探偵業をこなさなければならない。

 

ハードボイルドとやるせないユーモア感覚がまぜこぜになった、トラッシュでありつつもタフな作品。「どうにもならないなあ」と日々をしのぎながらどうにかやっていくうちに、不意に日常に変化が訪れるような、あるいは単なる夕暮れが、時に非日常な美しさをもって見えてくる作品だ。

 

『陽気な蝿は二度、蛆を踏む』――CHEERFUL FLY RUN OVER MAGGOT TWICE

 

「俺」は殺し屋だ。あだ名はエンジン。普段は仕事を依頼され、標的がいる町へ向かって、殺害する。俺が他の殺し屋と違う点は、標的にできる限り接近し、時にコミュニケーションを取ってから殺す点だ。今回の標的は、煙草屋の主人だ。

 

ハードボイルドでスモーキー、あるいは度数が高い酒のような作品だ。乾いた筆致で陰惨な殺し屋生活が語られる。ところどころで挟まれるユーモアはかえって苦々しさを増幅させるが、ページをめくる手は止まらない。作品に通底する不条理さと切なさはここでも存在する。結末は胸を抉り、本から顔をあげた時、日常に戻ってこれたことにある意味ホッとさせられる。

 

『ヤギより上、猿より下』――GOAT< <APE(注:検閲されました)

 

不景気にあえぐ山の麓のお店、『フッカーズ・ネスト』があった。とにかく客が来ない。経営者はオバチャンとロハン、従業員はおかず、つめしぼ、せんべい汁、あふりか、ロハンなどがいる。経営難のネストのところに、一発逆転の手札として、ヤギの甘汁、オランウータンのポポロが運び込まれる…………

 

最初からひっくり返りそうになった。「なに」と「なんなの」と「どうなってるの」を連発してしまう、とにかく予想の斜め上が平気で起きるのだ。トラッシュなキャラクター、トラッシュな展開、それが堂々と繰り広げられるので、面白いを通して凄みが出てくる小説だ。一体なんなんだこれは! と叫びたくなるが、思った時点で作者の掌で踊らされている。

 

キャラクターも群を抜いてヤバい。どの人物も気の利いた造形だが、印象的なのはあふりかだ。彼女(五十路)の部屋はジャングルのように蔦が巡らされ、隅にはタイヤを天井から吊ったブランコがある。壁にはシュワルツェネッガーの映画『プレデター』のポスターがあり、好きなんですか? と訊いたら、俺はあれになる、という。なりたい人間は初めて見た。

 

最初のパンチが強すぎて読者は世界観に引きずり込まれるのだが、読むほどに面白くなる。ヤギとオランウータンがネストにやってくるが、彼らも働くのである。従業員として。ヤギもオランウータンも営業成績をあげていく。そして読者が『ヤギより上、猿より下』というタイトルの意味を知った時、本当の意味で戦慄するだろう……

 

しょうもない世界としょうもない人間、そして極限の展開が狂気的にエッジを利かせながら進む。いずれ作品は終わるが、その時読者は、自分が作品の中に浸っていたことに、そして日常に戻ったことに安心したり、脱力したり、やや勿体なく感じるだろう。ケレン味が強すぎてとても万人には勧められないが、ハマる人はとことんハマる。凄まじい本だった。

 

《終わり》

逆噴射小説大賞2019、ピットイン(復)

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photo by José Pablo Domínguez on Unsplash

 

遅くなりましたが、逆噴射小説大賞に投稿された皆さま、お疲れ様でした! 一次選考・二次選考も完了となりました。私はマガジンを拝見しながら「うわああ、さ、作品が……あああああ……」とかなっていましたが、選考されたダイハードテイルズ局員の皆さま、そして投稿のきっかけを与えてくださった逆噴射総一朗先生に感謝したいと思います。

 

ひとまず全五作それぞれの出だしを投稿できましたので、以下にライナーノーツをまとめました。リンクも貼りますので、よろしければご来訪ください。文末には未来に向かうために我々ができることを書きました。

『オペレイション・メンシュ』

 

 

タイトル邦訳《人類作戦》です。メンシュって男性詞じゃん! 上司何考えてるの!? という突っ込みもありますが、ブラコウスキだけでなく、上層部の意思が働いたのです。

 

作品中で大暴れしている日本製ロボットですが、最初のボツ案では《ヒキャク》という名前でした。嘘だろ、介助ロボットなのに急いで運ぶのかよ……!

 

作戦テントではミヒターの他に特殊部隊員が同席していますし、今後の作戦でも参加していきますが、容量の関係で彼女らは泣く泣く削りました。続きからどんどん出していきたいです。

 

また、「この部分は掘り下げがいがありそうだ」と思ったのは《第一次世界大戦と地続き》というくだりです。作品の時期は現代ですが、あえてマシンに逆行した戦い方は何があるのか……そもそも人間らしい戦いとは……《パペタリー》は何をたくらんでいるのか……など、盛り込めそうな部分も満載です。

 

この作品を書いていてドイツを研究したくなったのか、フェルディナント・フォン・シーラッハの『犯罪』とマックス・アンナスの『ベルリンで追われる男』を買ってきました。どちらもドイツが舞台ですし、面白そうです!

 

ノンフィクションではロナルド・レングの『うつ病とサッカー』も買いましたが、これはうつ病選手の闘病記録であり、精神的な打撃も大きいので、後で読もうかと思います……

『ドラゴンリトルシガー1カートン3ミリ』

 

タイトルはピースリトルシガーより頂きました。1カートンってけっこうかさばるけど、持ち運び大丈夫……?

 

「そういえば異世界転生って考えたことないな」と思って書いた本作ですが、よく見たら転生してないし、単にワープしただけでは?

 

しかしタバコには化学的にニコチンが含まれているし、タバコ一本吸うだけで五行ぐらいは行数を稼げるので、広げ方も工夫できそうです。あと、異世界で現代のタバコを売り始めたらすごく流行るんじゃないかな……!(武器商人の思考)

 

またこの作品、タバコとライターで主人公はワープしていますが、これは彼に限らず、道具さえ揃えば別な人でもワープできるのでは? 例えばドラゴンっぽい女の人が吸ったとしても現代地球に移動できるのでは?

 

『トライアリズム・ウォーマシン』

 

邦訳タイトル《三人の女が乗り物で戦う》です。友情、そして嫉妬や憎悪は、道具を与えられるとすさまじく燃え上がる!

 

若干設定が先行しすぎていたかな、というきらいもあります。800字数制限に何度も引っかかったのでかなり削りましたが、それでも戦争エキシビションハンヴィー、あと三人の女を描いたらいっぱいいっぱいでした。でも、800字で三人も出せるのはすごくないですか?(自画自賛

 

どう見ても敵対勢力が殴り込んできたのに、主人公グループでも内紛です。映画みたいな内容なので、どんどん膨らみますよ……!

 

ちなみに澪が選んだのは戦闘機です。ミサイル一発食らったらハンヴィーが吹っ飛びます! たぶんハンヴィーの所属部隊も全滅してます。ピンチ!

『サン・フォア・ザ・サン

 

タイトル邦訳《彼のための太陽》。

 

こちらもロボットが出てきますが、キーワードとなるのは《基盤》です。この世界、基盤が大事なコアで、CPUやハードディスクの上位に位置します。新しいシリーズを宣伝する際、販促としてコアの写真も街頭ディスプレイに載せないといけないほどです。

 

自分の中だと描写するまでもなくセコンドは金髪です(あとで描写します)。黒でも赤でもなく金。ボツ案だと日本人セコンドの予定でしたが、やはりロボットマッチなら出すのは金髪です!

 

ロボットに血液はなく、死の概念もありません。後天的に学ぶことはありますが、その場合も即死や脳死を体系的に学んで、論理的に使う場合が多いです。そんなロボット、自分の基盤を入れ替えるという、さながら心臓移植めいた意識を持った理由は? エルガー博士を襲った悲劇とは? ロボットマッチはどう繰り広げられるのか? ルール通りに戦う奴なんているのか? 奥行きを作るのが楽しみです。

『芸能殺手! アラタメさん』

 

タイトル邦訳《ターゲット殺害しなきゃいけないから化粧するしチャームもするけど、踊るのってめっちゃ恥ずかしいから見たやつは全員生きて返さない》。

 

どの作品も800字に圧縮するのが大変でしたが、この作品が群を抜いて大変だった記憶です。たぶん、設定を入れすぎたんだと思うの……

 

前回の大賞でも『安倍晴明オニと出会う』のような時代小説(えるふが出ます)を出していたので、「そうだ! 純日本人を主人公にしよう! 純なんだから刀とか開祖2000年とかそういう奴にしよう!」と考えました。芸能方面については、現代アイドルよりも歌舞伎の女形をイメージしながら伸ばしていきたいです。

 

作品では描写されていないのですが、ガガGはガガジーと呼びますし、ガガGはサングラスが似合ういかつい巨漢のセクターサード出身で……といろいろ考えていたら完全に字数オーバーでした。主人公の外見も作りたかった……

 

芸能活動でも剣術アイドル……芸能界の光と闇……カワイイ男の子……とかで作り甲斐がありますが、まず主人公の本名を出さないといけませんね!

『牙虎の里』

 

タイトル邦訳《いちおうお前についていくが期待値がゼロになった時点でお前はキルされる》

 

投稿作品は五作まででしたが、完成したのは六作でした。ですのでこちらの作品は泣く泣く外し、どうせなので描写を膨らませながら作りました。

 

以前から平山夢明先生の『無垢の祈り』のように、《人類の常識をことごとく破壊してゆく超越者》という概念に憧れがあったので、今作ではサーベルタイガーとして出てきて頂きました。最初の案では研究員も生存する予定だったのですが、展開の都合上、泣く泣く彼には死んで頂きました……

 

現在、主人公の少年がいる施設は奥多摩にほど近い地下施設です。ベヘモスの故郷としては南米を設定しましたが、そこまでおおよそ三万キロあります。トラベル系としても作っていけますし、主人公の父親は本気で追いかけます。リアル・ネイチャー(本作品はフィクションです)も各地に分散していますので、見どころは多そうです。

 

終わりに・未来へ向かうために

 

投稿作品の五作、プラスして一作品をこれまで再確認しました。現時点で審査を通過したのは三作ですし、思うところもありますが、書く側の人間としては、選考結果が出るまで手をこまねいている以外にできることがあります……そう、書くことです。

 

我々は審査で選ばれた作品の続きはもちろん、特に選ばれなかった作品でも、続きを書いて展開を盛り上げ、キャラを立たせ、クライマックスを作り出し、《完》と銘打ち、お祝いすることができます。

 

途中で「なんか疲れてきたな……」「この作品は人に見せられるほど面白いのか?」とかモヤモヤしてきたら、時間を置いて寝かせることで、新しく作品と向き合えます。最終的に面白くないだろうと判断した場合は、捨ててもいいです。ただ、その作品が自我に訴えてくるほど強い作品だった場合……ある日、ふと思い出してデスクの前に座るかもしれません。

 

もちろん一日は二十四時間で、書く人間にも生活があるので、アウトプットの時間は少ない。だからこそ、手持ちの弾丸を調節したり、休んだり、時にインプットに没頭して逃げながら、丁寧に書き続ける必要があります。

 

それに前回の小説大賞に参加されている場合、我々には前回作品の続きを書く仕事も残っています。

 

読むのは他人でもできますが、書いて完結させられるのは我々しかいません。そして完結した作品を改めてフリースペースに出すか、noteで有料販売するか、印刷して戸棚の奥に仕舞っておくか、思い切って作品賞に投稿してみるか……それも我々に与えられた自由です。

 

いま言えるのは、審査結果を見て喜んだり、ショックを受けることがあるかもしれませんが、あまり腐ることなく書いていきましょう、ということです。

 

もちろん、結果を見て一喜一憂することは人間として当たり前です。嬉しいものはそのまま受け取っていいですし、メランコリーになってもマガジンの他作品をチェックしていると、掘り出し物が見つかるかもしれない。感性に響く作家もいるかもしれません。あるいは、「こいつらに負けない」と奮起して書くこともできます。

 

しかし、何日もガッカリしたままモチベーションを下げているのはもったいないです。やけ酒をあおって映画を観ながら怒ったり、つらさのあまり本やゲーム機を捨てることも長い目で見れば良くないです。その時間を使ってできることはたくさんあるのですから(そんな私ですが、前回の二次選考発表時にはいくつか選ばれなかったので腐りましたし、大賞発表時にも選ばれなかったので、腐って数日ダラダラしてました)。

 

我々は審査される側においては特にできることはなく、たぶん2020年の1月までやれることはありません。しかし、それのみにフォーカスするのではなく、別のエリアを見るようにする――例えば書くとか学ぶ――と、どんどん選択肢は広がるのです。選ばれた人もそうですし、選ばれなかった人も、逆噴射先生が仰るように、何も失っていません。おそらく我々ができることは、自分自身が思っているより、遥かに多くあるはずです。ですから選考に通過した人は嬉しいテンションを維持したまま書いて欲しいし、通過しなかった人は別な面白さの芽を探して、気分を切り替えながら書いていって欲しいと強く思います。

 

《終わり》

 

青カビな俺『Ico McDonnel's Story -Iraq War-』――ゴアと凄惨と下卑とユーモア(復)

青カビな俺『Ico McDonnel's Story -Iraq War-』読み終わりました。同人誌。イコ・マクダネルの戦争前日譚。『イラクの自由作戦』当時のアメリカ軍兵士たちがどのように戦い死んだかをゴアゴアしく描きながら酸鼻な美を求める一作。野蛮と下品が好きならおすすめしたい作品です。

『ぽぽぽぽ』――ふりがなとカタカナの絶妙なエイミング(復)

へにゃらぽっちぽー『ぽぽぽぽ』、2019 を読んだ。

へにゃぽちゃんとへにゃらぽっちぽー兄さんが各地で活躍する話であり……絵本のような文庫本であり、カタカナとひらがな、漢字がマイムマイムを踊りながらサークルを描く……「ぽ」の使い方が独特で楽しく、引き込まれる作品であった。

あと、へにゃらぽっちぽー兄さんはアイドルになったりする。装丁もしっかりしていて良い同人誌だった。

野尻抱介『南極点のピアピア動画』――初音ミクが宇宙と交流する頃の人類 (復)

 野尻抱介『南極点のピアピア動画』ハヤカワ文庫、2012を読んだ。SF小説である。小説だが実在ジャーナリストが実名で登場しててびっくりした。

 

南極点のピアピア動画 (ハヤカワ文庫JA)

南極点のピアピア動画 (ハヤカワ文庫JA)

 

 

 

 四篇収録の連作集である。一話六十ページほどで、最終話が書き下ろしの百ページ。どんな内容かというと……ボーカロイドの小隅レイである。カバージャケットはどう見てもミクなのだがこの世界では小隅レイである。そういうことにしてほしい。小隅レイがラブソングを歌い、地球外生命体と小隅レイの形式を通してコミュニケーションしたり、小隅レイを共通点にして男女が青春したり、そういう作品である。宇宙に行くとか深海があるが、暴力はあまりないので、ゆったりと楽しめる。

 

 またこの世界にはピアピア動画という動画サイトがある。メニューが八個くらいあってピアピア技術部とか画面内でコメントが流れる仕様がどうしてもあの動画サイトなのだがぽいのだが、そこは棚においてほしい。確かにニコニコ動画はちょっと見づらいし生放送とかもあまり見ないが、最近のニコニコ動画はログインしなくても動画視聴ができるようになったし、ニコニコ静画も盛況でおもしろいマンガも載ってるので、許容範囲多めにしてほしい。ピアピア動画の由来は、ピアツーピア型の形式で運営されているのだし。

 

 上でも書いたが、悪人が出てこない。男が女を宇宙に連れて行く話だったり、ハミングマートに勤める女が小隅レイ経由で男と知り合う物語があるが、最終話『星間文明とピアピア動画』のところからグッと話が加速していく。宇宙人が出てくるが、小隅レイを媒体にして人類と交流を始めるのだ。

 

 あるいは最終話に全てを打ち込むような勢いで伏線が回収されていく。人類はレイを用いてようやく宇宙人と対話できるのだが、主人公はやはり人類だ。小隅レイはスーパーヒットしたが、それ自身の意思は特にないただのボーカロイドなので、やはり人類が頑張らねばならない。ピアピア動画とそこに集まる有志たちが試行錯誤し、どうにかこうにかやっていく。

 

 一番気に入ったセリフは、「人間じゃないものが人気者になると、みんな幸せになる」(185頁)になる。スーパーヒットの小隅レイにあやかって、人々の行動が促進されるのである。小隅レイをメディアにして創作をすると、それまで認知されなかったものが受け入れてもらえる。小隅レイ関連のグッズも売れる。小隅レイ関連のイベントは人気が出るし稼ぎもいい。二次創作よりも一次創作に寄せていった、まさにメディアとしての小隅レイであり、それが広がると宇宙にも手が届く。

 

 活動の土台になるのはそれぞれの《好き》という感情で、そこから派生した行動は、人々にバリエーション豊かな刺激を与えるのだ。面白かった。

 

《終わり》

銅大『SF飯 宇宙港デルタ3の食糧事情』――だるまさんがころんだ、ぐりっ、ぴーっ! (復)

銅大『SF飯 宇宙港デルタ3の食糧事情』、ハヤカワ文庫、2017を読んだ。以下続刊している。

 

 

 

 飯である。宇宙で飯である。もともと住めるところでなかった宇宙まで来れたんだからそこまでこだわらなくてもいい気がするが、そんな融通がきかないのが人類である。栄養を取らなくては倒れるし、栄養を取れるなら、ちょっと一捻りしようじゃないか。焼こう。煮よう。発酵させよう。

 

 ということで、食料合成機ができた。宇宙に食材をそのまま持ち込むことは難しい。コンロや電子レンジを持ち込んでも、電力や熱操作とかを考慮すると難易度が跳ね上がるし、そもそも食材がない。そこで宇宙船に備え付けられた食料合成機に食用藻などの材料を放り込み、ガチャガチャと音を立てて作るのである。この本に出てくるお店〈このみ屋〉は、食料合成機で飯を作ってお客さんに出す。かつて先代の時は栄えていたが、コノミの時代だとお客さんはあんまりいない。たぶん……コノミが料理修行中だからだろう……

 

〈このみ屋〉で奔走するのは少女コノミである。店に転がり込んでくるのが、ふらふらしすぎて実家を勘当された若旦那である。主人公だ。コノミは若旦那の家に小間使いとして仕えていたので、立場逆転である。どうやらコノミは若旦那にひとかたならぬ想いを抱いていたらしいのでこのシチュエーションなら速攻でハッピーエンドだな、と思うが、若旦那があんまりにもふらふらするのでそうはいかない。宇宙酔いや空腹に苦しめられながら、若旦那はあちこち飛び回る。

 

 若旦那とコノミはひょいひょい、丁々発止で生活していく。その様は漫談ともライトノベルともつかないもので、初めて入った読者には異様な軽さが気になるかもしれない。しかし、その丁々発止が本書を読む時のハードルを下げ、かなり読みやすくしてくれる。かなりガッチリしたSFなので、とっかかりができるのはありがたい。

 

 本書の登場人物は若旦那、コノミ、知性強化をしたすごいイルカ……サイボーグ、スリーマンセルで行動する二足歩行の虫星人などなど……である。異文化交流どころの話ではない。人類だけでは宇宙ステーションが回らないのだ。

 

 クセだらけのキャラクターを〈このみ屋〉に呼び込み、うまい飯を食わせる。それは大変な仕事である。満点サラダ……グーライ菌の子々孫々丼(当店の一番人気)……昆虫星人……宇宙ステーキ……ヌカミソハザード……様々な要素を検討しながらも、人間やだいたい類似の知的生命体が同じテーブルについて食べられるレイヤーまで底上げしていく。そして互いがウマイというような飯を作るのだ。

 

 そういう面倒くささ、難解さを噛み砕いて本書の底を通るのは、やはり若旦那とコノミの丁々発止である。これによって本書はハードSFでありながら、なんとなく面白い会話とシチュエーションでスイスイ読んじゃえる楽しさ――ページをめくる喜びを生み出すことに成功している。面白い小説だった。

 

 なお途中で、若旦那のところにGが出現する展開がある。グアテマラとかドイツのGでなく、虫のGである。確かバイオハザードでも敵キャラで出た気がする。若旦那は虫が苦手でないのでGが頭に載っても大声をあげたりしないが、だいたいの人はそういう目にあったら叫ぶとか逃げると思うので、ここだけ書き出しても若旦那はそうとうな大人物だといえる。だがもうちょっと彼は衛生に気を遣ってもいいのではないか? 若旦那はふらふらしすぎて職業判定がDマイナス(働いたら職場災害が起きるので労働禁止)になっているが、Gに抵抗がなさすぎるのも一因を担っているのでは? コノミや彼の妹は若旦那を憎からず思っているが、そのへんもきちんと話し合ったり腰を据えて会議することでGを出さない感じにするべきではないだろうか……

 

《終わり》