がらくたマガジン

小説を書いたり、読んだり、勉強したりするブログです。執筆者紹介  (復)=復路鵜執筆  (K)=春日 姫宮執筆

シンフォニック=レイン(ネタバレあり2)

シンフォニック=レイン DVD初回限定版
キャラクターに対する雑感です。全力でネタバレしているので未プレイの方は読まないで下さいませ。



2.ファルシータ・フォーセット

このキャラに対する私の印象は、多分一般とは大きくかけ離れているでしょう。
彼女は、実はとても子供じみた部分を持った人物だと思っています。


取り敢えずは、彼女の心情を語る上で絶対に必要になる、メロディの歌詞を挙げておきます。


ひとつの夢のためあきらめなきゃならないことたとえば 今 それが恋だとしたら 迷う
居場所はどこだろう 私の役割は何?ずっとずっと思ってたそして みつけた気がしたの
ここでならば言える今まで言えなかったことや胸の内さえも 口をついて出るメロディー
やがて 覚悟が芽生えていたこの夢のためならば 他を捨てて構わない
つめたいと思うでしょう振り向かない私を だけど時には どちらかを選ぶこと 避けて通れない
皮肉なもの そして抱えてるカナシミこそが 奏でるメロディーそれは とても力を持つ
さよなら ありがとう言えなかった言葉たちを奏でましょう君のその背中に 祈りを込めて
便宜上、この日記では「ひとつの〜」を一行目「居場所は〜」を二行目と表記します。
さて、彼女なのですが、名前が「嘘」の割には嘘を吐くことが実は驚くほど少ないキャラでもあります。
もちろん、コミュニケーションの円滑を図るための些細な嘘は吐くのですが、それも普通の人が使うレベルですし、彼女の語る言葉は殆ど真実であるとさえ言えるでしょう。
そんな彼女が吐いたおそらくは最大の嘘、については後述しますけれど、基本的には、ファルは強くも無いし賢くもない。そして前半見せていた彼女の姿も真実である。そう言った視点から話を進めていきたいと思います。
さて、後半のあのシーンがあまりにショッキングだったせいか、前半部分の彼女については忘れられがちですけれど、元々彼女は非常に努力家であると共に、自分の音楽の限界に悩み、自分がこのまま音楽の道を進んでいくことに疑問を抱く、そんな弱さを持った人だった筈です。
音楽の道を進んでいくことの疑問はメロディの二行目でも語られていますが、ここで重要なのは、彼女が音楽の道に進むよう後押ししたのはクリスだったということです。
12月下旬〜1月上旬に語られていますが、例えば1/3では「私の歌は……価値のあるものなのかな?」「私は……プロになれるかな」という問いに対して「あるし、なれるよ。ファルさんにはその実力もあるし、資格もある」とクリスは励ましていますし、1/10では恐らく彼女の決定的な転換をもたらしたであろうやりとりがあります。

(誰かに認められ、才能を見つけて貰った者だけが幸せになれる。それだけが幸せじゃないことはわかってると前置きした上で)
「私にはなにもできないのよ。同じ立場にありながら、ただ歌うことしかできなくて……」
「それ以上のことを、誰かが望んでいるの?」
「……え?」
「ファルさんが、そこで歌って、その子供達に希望を与える以外のことを、誰かが望んでいるの?」
(中略)
「ファルさんが歌を歌ってくれたこととか、そこに来てくれたこととか、それだけでも充分、なにかをしてあげられたってことには、ならないかな」
答えを探し、黙り込んでいるファルさんに笑顔で付け加える。
「それに、今度の卒業演奏で優秀な成績を収めて、それこそプロになることができたら、もっと良いんじゃないかな」
驚いたような顔でファルさんが僕を見つめ、それから、ようやく笑顔を取り戻した。
「……そうね。そのためには、がんばらないとね」

はい、クリス君、自分で自分の墓穴掘ってますね(笑)。もっとも、普通この言葉をあんな行動に結びつけるとは思いもよらないでしょうが。でも、ファルが自分の中の結論を見つけ出すのに、クリスの言葉が大きな支えになったということは間違いないでしょう。ここがメロディの歌詞4行目、5行目にあたるかと思います。
お次は、彼女のもう一つの要素である「自分の音楽の限界に悩んでいる」ということについて考えてみたいと思います。
結論から言うと、クリスが持っていて彼女が持っていないもの、それは悲しみです。ここでまた、クリスは彼女に決定的な情報を与えてしまっているのですが、1/16のその部分を引用してみましょう。

(クリスのフォルテールが素晴らしかったことを受けて、自分とクリスとでは何が違うのかを思い悩み)
「私になくて、クリスさんにあるもの」
ファルさんは誰にともなく一人呟く。
そして僕は、ふと基本的なことに気づいた。
「魔力……とかなのかな」
(中略)
「魔力は感情だっていう説。講師の誰かが、雑談でもするように言っていたことなんだけれどね。だから、教科書にも載っていなかった」
「……感情。うん、それは聞いたことがあるよ」
「怒りでも、喜びでも、悲しみでも。講師の先生は、そんな風に言ってた」
「ならクリスさんは……」
再びファルさんは口を閉ざし、思い当たることがあるような素振りをみせ、すぐにそれを隠した。
(中略)
そして僕も、同じように思い出していた。
ファルさんが欠けていると思い込んでいる何かが、パズルのピースがかちりとはまったように、全く感じられなかった日。
彼女は思い悩んでいたはずだ。
そして同時に、悲しんでもいた。

彼女はこのシーンでハッキリと「何が自分に足りないのか」を自覚したと思います。
これ以前にも、クリスのフォルテールの音がいつになく良かった時に、その日何があったのかを聞き出したり(1/10 ちなみに原因はアルとの別れ)、更に先ほどの引用シーンの次の日(1/17)にコーデル先生と相談したり(ここで自分の確信の裏を取っていたと思われる)しています。そうやって、十分に確認した上で1/18日

フォルテールの調子が悪いクリスに対し)
「クリスさん……いま、幸せ?」
(中略)
「いや、幸せだと思う」
「そう……」
それでもまだ、少しだけ遠慮がちな僕の声に、ファルさんは顔を逸らしてうつむく。
そのすぐ後に彼女は顔を上げ、そのときにはもう、いつもの笑顔しかその顔には映っていなかった。
だからそのとき、ファルさんがどんな顔をしていたかは、僕には分からなかった。

そして、運命の1/19日となります。
彼女はその日、クリスが何度も心配するように疲れていたようです。
前日の夜、ベッドの上でクリスのことを激しく想いすぎたからでしょうか?(笑)
冗談はともかく、彼女はその日、クリスに対してとても酷い仕打ちをします。そのことに対して彼女なりの葛藤があった、と、言うより自分が葛藤することも込みでこの行動を選んだのでしょう。
確かに、彼女の心に欠落したものはあるのでしょう。それが生まれつきなのか、孤児の生活がそう変えたのかは定かではありませんが、彼女には感謝や共感といった感情が欠けているように思います。
例えば、葬式の最中に大声で笑い出してしまいたくなるような、そういった他人に見せられない部分。それを持っていたのは事実だと思います。
不幸なのは、彼女はそれを全く見せない/醜悪な形でそれを見せるという二元論でしか考えられなかったことです。「自分を認めてもらうために私は歌い続けてきた」という彼女にとっては、ありのままの自分を自然に見せて他人に受け入れられることなんて、信じられなかったというところでしょうか。
彼女自身も気づいてはいますが、彼女の言うような心の腐食部分は誰にでもあるもので、それでもみんなそこに葛藤を覚えずに結構楽しくやってるんですけれどね。真面目すぎる人間の弱点というべきかも知れません。
加えて、彼女のもう一つの悲劇はal fineでコーデル先生が言ったような「幸せの先にも、きっと素晴らしい音はあるはずだ。例え今の地位、彼の魅力となっている音を失ったとしても」そういった考え方が出来なかった事でしょう。メロディの1行目や4行目にあるように、クリスと自分を悲しませる(つまりお互いにとって幸せな恋人関係を棄てる)か、音楽を棄てるか、そういった二者択一でしか自分の将来を考えることができなかったのです。
その結果、彼女はクリスの励ましを真に受ける形で、音楽の才能を認めて貰い、音楽で人を幸せにするという、自分で作りだしてしまった「選択肢」を選び、クリスにあのような形で自分の人とは違った部分を見せるという「選択肢」を選びます。そうすることでクリスを悲しませることは勿論、自分も切り捨てた悲しみでより高みに行けると信じて(+アーシノをちょっとうざいと思ってた?/笑)。
さて、1/19の行動は一応功を奏して発表会の演奏は大盛況の下に終わります。
そしてEDではクリスにアルの姿を見せることを提案して、その後で「……クリス、ごめんね」と謝っているわけですが、これも彼を苦しめ、そしてそんな自分を苦しめる為の手段であったと思います。
さて、ここまで読んで下さった(こんな長い文章を読んで下さってありがとうございます)方には、私の言わんとしていることが分かるだろうと思いますが、冒頭で述べた彼女の吐いた最大の嘘、それは1/19までの彼女の在り方だけでなく、1/19以降の彼女の在り方でもあるのです。
冷徹で、大好きな音楽の為ならば全てを棄てられる彼女の姿が真実だとするなら、クリスのことを心から愛していて、他人に対して優しく接して来た彼女の姿もまた真実でしょう。彼女はどちらかを選択することしか考えられず、結果「他人」ではなく、「自分」に常に嘘を吐き続けています。
お気づきでしょうか? 「雨のmusique」と「メロディ」どちらも、現在彼女が見せている自分とは反対の自分を歌っていることを。
そんな彼女に対して、1/19以前のクリスは優しい部分だけを、1/19以降のクリスは冷徹な部分だけを見ています。これもまた、悲劇の上塗りというか、どうして彼女の両面を受け入れてあげられないのかと思うところです。彼ならば彼女を変えられる筈なのに、その方向性に彼自身が気が付いていない。
……とは言え、これからそうなる可能性が無いとは思っていません。クリスとファルが自分たちで本当の幸せを見つける事も、結構ありえることではないでしょうか。
コーデル先生がトルタに言ったように、何と言っても、二人とも若いんですから(笑)。