がらくたマガジン

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[小説]怪談・奇談(小泉八雲)講談社学術文庫、1990

 明治二十三年(1890年)に日本へと渡ってきたラフカディオ・ハーン(後に日本に帰化し、小泉八雲へと改名)が記した怪談の数々をまとめた短編集。


 ちなみに東方プロジェクトの『蓮台野夜行』や『大空魔術』にはマエリベリー・ハーン通称メリーという人物が登場しますが、彼女の元ネタでないかと思ったり。また八雲という名前は同プロジェクトに登場する八雲紫にも通じます。製作者のZUN氏もメリーと紫の関係に対する質問で、ラフカディオ・ハーンに言及されているそうですし。


 この本で出てくる話は『臥遊奇談』や『夜窗鬼談』のような昔の書籍に出てくる話を再構成し、八雲が再びまとめたというものになっています。従ってオリジナルというわけではありませんが、より物語らしくなっていると言えるでしょう。


 この短編集に収録されている物語には『耳なし芳一』や『轆轤首』、『雪女』などの昔から知っている話も含まれているので驚きました。なかなか手広い。あと耳なし芳一は文章でもやっぱりちょっとグロい。


 私のお気に入りは『おしどり』と『食人鬼』と『幽霊滝の伝説』『ゴシックの恐怖』です。とりあえずひとつずつの感想を。詳しくは語らずに。


『おしどり』はわずか二ページほどの超短編であるのですが、後半一頁分の告白と、そこから繋がる数行ほどの行動が読んでいる人間をぎょっとさせてくれます。おそらくそこにたどり着く過程で殆どの読者は予想できてるかと思いますが、それでも尚広げられたちょっとばかりの無残さが人の心をひきつけることでしょう。結末とエピローグの間にちょっと空白がありますので、そこから主人公である猟師の心情を考えてみるのも一興。


『食人鬼』はまあ割とオーソドックスな怪談ではありますが、なぜ食人鬼が人を食うようになったのか、それに付随する無念さの告白が背筋を嫌な感じで撫で付けてくれます。それと、食人鬼そのものの姿も鬼や確固とした怪物というより、得体の知れない正体不明さが滲みでており、(褒め言葉として)嫌な感じがします。


『幽霊滝の伝説』は不気味さ+ラストのグロテスクさで読者を怖がらせてくれますが、私はむしろ最後のグロテスクさと、それに至るまでをいちいち想像しては怖がったりしています。駄目な性格ですね。とりあえずは、ラスト一行を漫画にするならでかでかと二ページの大開きがふさわしいかなと思います。ついでにその後どうなったかを想像してみるのも良いかもしれません。きっと阿鼻叫喚でしょう。


『ゴシックの恐怖』は怪談というよりも小泉八雲の体験談から構成されるエッセイなのですが、そこで見受けられる椰子の木とゴシック建築の対比が面白いものでした。ゴシック建築において人を不安にさせるものを、ああした理論に持っていくというのが新鮮です。それにしても不気味ですよね、ゴシック。なんか尖ってるところとか。


 上で紹介した作品らの他、『因果話』や『天狗の話』や『薄明の認識』など、曰くあり気な怪談もありますので、興味のある方は手にとって見られては如何かと。古式ゆかしい日本の怪談を味わえることと思います。

怪談・奇談 (講談社学術文庫)

怪談・奇談 (講談社学術文庫)