チェコの作家カレル・チャペックの代表作のひとつ。もうひとつは『R.U.R』(これによって全世界にロボットの概念が広まったと言えます、そう考えるとスゴイ)。
とある島で発見された海底に住む生き物、山椒魚。当初は真珠採りに利用されていた彼らはその生産性と従順さから、やがて海底の工事、陸地の増設などの大規模な活動に駆り出され、人間の労働を次々と肩代わりしていくのだが…………
山椒魚と関わってからの人類全体の描写には迫真のものがあり、第二部以降から面白く読みました。第一部も悪くはないのですが、解剖学的な記述がやや多いのでちょっとめんどくさい。 第一部の動物園のシーンも良いのですが。
またこの作品では詩、新聞記事、雑誌、論文、議事録などさまざまな媒体を用いて文章が進められており、やや多すぎるきらいもあるものの、現実性と当時の世評をよく感じさせてくれます。ユーモア混じりの文体で書かれているので、中高生もそれほどアレルギーなく読める代物であると思います。
個人的に感じいったシーンとしては、第一部五章でアイルランド人がミサに捧げるための金で酒を飲んでしまうところ、第三部九章のヴァドーツ会議、また第三部十章の、ポヴォンドラ老人が息子と釣りをするところです。とくに国際会議においての各国の山椒魚に対する対応の空々しさには、一種凄まじいものがあります。国際社会コワイ。ちなみに日本もいろいろ出てきたりするのですが、ハラキリとかしているのでやっぱりなあ と思いました。
また作中、ポヴォンドラという人物を若い頃から中年、それに老人と移り変わらせていきますが、彼のキャラクター性も良いものでした。特にすばらしいと思えたのはポヴォンドラが老人となった後です。時間性の表現と、思考形式が素敵。
これを読んでいるとヨーロッパ、ロシアなどのエリートと話す際に頼りになると言われますが、はてさて。
この人の本は『ダーシェンカ』しか読んでいませんでしたが、他の本にも手をだそうかと思ったりしてしまいます。
- 作者: カレルチャペック,Karel Capek,栗栖継
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2003/06/13
- メディア: 文庫
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