がらくたマガジン

小説を書いたり、読んだり、勉強したりするブログです。執筆者紹介  (復)=復路鵜執筆  (K)=春日 姫宮執筆

渡辺浩弐『アンドロメディア』幻冬舎文庫、1998

:人の手により成ったバーチャルアイドルAI。彼女は変遷の末にネット内で自己増殖を始め、やがて妄執の領域へと至る。


 90年代時点での未来創造の産物でもある、現代とは異なる現代。天才的な技術者タカナカは、ある時日本芸能界において凄まじい人気を有していたアイドル人見舞のダミーを創ることを、父親のプロデューサーから命じられる。巨額の投資を行いバーチャルアイドル・AIを作成することに成功したタカナカは、やがて肉体の模造のみならず、電脳内における『人間』の構築を目指し、秘密裏にAIの改造を開始する。やがてネット内での自己増殖を行い始めたAIは、自身のオリジナルである人見舞にその手を伸ばし始める。


『ゲーム・キッズ』シリーズや、最近では『死ぬのがこわくなくなる話』で名を馳せている渡辺浩弐さんの書籍作品。長編小説は本作が初出版となります。ちなみに私は『2999年のゲーム・キッズ』の、あの底抜けの荒涼感が大好きです。『見えない殺人鬼』とか、サラッとした書き口なのに、延々と傷口を針で毟るような話なので夜中とか昼に眠れなくなるんですが、まあこれは関係ありませんね。でもオススメ!


 本作には各章毎に様々な要素、様々な方向性が散りばめられているようでした。第一章は機械を用いて人間の贋作を作るという、古典的とも言えるSF口調。第二章からは、アイドル人見舞の目が写した、目眩を覚えるほど絡み合った狂的イメージ。第三章においては、人見舞の幼馴染でもある小林ユウが捉えた『事件』。そして最終章では、それまで提示された全ての要素を下敷きにした、群像劇とも冒険譚とも言える物語が幕を開けます。結末におけるカタルシス、謎が解かれる過程はややもすれば食傷しそうな感じもありましたが、そこまでの持って行き方、下地としての物語の連続は魅力的でもあります。個人的に一番好きな所が要所要所での擬音作法なのですが、今回もその点は遺憾なく発揮されていて満足です。きゅるきゅるきゅる。


 エンディングは、何かしら読者を無為に惑わせようとする傾向が見受けられますが、それもまた良い味を出しています。痛覚がない状態で折れた腕を見ているようですね。不思議なダークさでやってくるその光景は末恐ろしい楽しさを感じさせます。

アンドロメディア (幻冬舎文庫)

アンドロメディア (幻冬舎文庫)