がらくたマガジン

小説を書いたり、読んだり、勉強したりするブログです。執筆者紹介  (復)=復路鵜執筆  (K)=春日 姫宮執筆

C・ド=プランシー『地獄の辞典』講談社+α文庫、1997

:読んで感じたことなのですが、地獄に関する辞典というよりも、中世フランスの文化辞典だと考えた方がいいかもしれません。そもそもこの著作の副題が、「地獄の辞典。精霊、魔神、魔法使い、地獄との交渉、占い、呪い、カバラその他の神秘学、奇蹟、イカサマ、種々の迷信、予兆、交霊術の事績、および概括すればあらゆる奇跡的・驚異的・神秘的・超自然的な誤った信仰に関する存在・人物・書物・事象・事物の普遍的総覧」なのですから、地獄というよりやっぱり文化のちょっとした集大成かと思えるのです。というか副題長すぎるよ!


 この辞典は文庫版でも相当に分厚く、『アスタロト』や『カイム』や『グザファン』など、あまりメジャーではなさそうな悪魔たちも図版入りで紹介されています。見ていて暗黒方面の想像力をかきたてられるので非常に楽しい。ただ、降霊術や魔女についてはいろいろなエピソードが導入されているのですが、悪魔らについてはあまり詳しく述べられていないのが残念。


 また不思議に面白い点が、主にヨーロッパ方面の悪魔や魔神を紹介している本なのですが、たまに日本の魔神や魔術と関係がありそうな人々が出ていることです。山伏とか熊野牛王とか(ちなみにGooと書かれてます)。中央アジアや南米の悪霊についても記されていればより興味深くなりそうなのですが、まあそれはそれで。


 ちなみに最もボリュームいっぱいに書かれているのが魔女裁判や魔法使い、それとメジャー物な代物(例えば吸血鬼とか歩く死者とか)です。人物ならジャンヌ・ダルクやジル・ド・レエとか。十九世紀の視点で描かれた彼ら彼女らを、現代の視座から眺めてみるのもオツな感じがします。


 文末には日本人研究者が執筆した『地獄について』も収録。一番気に入った絵画はジャック・カロ画の『地獄』です。ミニチュア化された阿鼻叫喚と落ちる地獄でなく、昇る地獄であるのが素敵さを演出。


 あと個人的にイチオシの悪魔は『ストラス』で。


地獄の辞典 (講談社プラスアルファ文庫)

地獄の辞典 (講談社プラスアルファ文庫)