がらくたマガジン

小説を書いたり、読んだり、勉強したりするブログです。執筆者紹介  (復)=復路鵜執筆  (K)=春日 姫宮執筆

巌窟王、2004

第六回。一つの局面を超えて、もう一つの場面へ。暗転を経て未だ醒めやらぬ霧のような道は。


第十一幕『婚約、破談』:待て、而して希望せよ。
 青年たちはヴァランティーヌを連れて悪意の屋敷を出ることに成功し、マクシミリアンと彼女はマルセイユへと退避する。モルセール家では妻メルセデスがかつて知っていたエドモンについて苦悩し、フェルナンと口論となってしまう。そしてヴィルフォールは母親エロイーズの犯行に気づき、保身のために薬物で女の精神を侵し、病院へと送ってしまう。アルベールとフランツは、二人の隠れ家で一連の犯行について考えるが、伯爵が糸を引いているという話題から仲違いし、アルベールは飛び出してしまう。やがて家へ戻った少年の元に舞い込んだ報は、ダングラール家からのユージェニーとの婚約破談の申し出だった。
 エロイーズさんアウト! ここ数回、悪女ぶりを遺憾なく発揮していた彼女はとうとうヴィルフォールに企みを暴かれ、放逐されてしまいます。小さい怪物を大きな怪物が喰うことに、やや似てるかもしれません。技術が発達してる世界なら精神の治療も可能では? とも思ってしまいますが、貴族社会での閉塞感や、より鬱屈した感覚を出すためにむしろ必要かもしれません。しかし世界自体の歪みですが、平素の映像が幻惑的であるせいか、飛び抜けた異常性はあまり感じないようであったりします。
 途中でアルベールは一度伯爵に会いますが、その際伯爵が放つ、『待て、而して希望せよ』言葉はやはりしみじみ格好良いものでした。アルベールの眼から見て伯爵は父親か、師か、あるいは身近な英雄なのでしょうか。己が持っていないものを全て兼ね備えたような。


第十二幕『アンコール』:ピアノの鍵盤と共に連なる想い、さざめく心。
 ユージェニーもまた婚約破談については初耳だった。父親ダングラールに反抗する彼女だが、既に伯爵による騒動から、モルセール家に不信を抱いていたダングラールは自己保身のためににべなく拒絶する。ピアノの演奏会をお膳立てしてユージェニーに近づくアンドレア。少女の、アルベールに対する親愛と摩擦の感情が入り交じる中、当日を迎えた発表会にて、アルベールは友人ドプレーの助けを借りて入場を果たす。ユージェニーの演奏、邂逅、深まる絆。しかしアンドレアと組んでいたダングラールはアルベールをオペラ座から追放し、偶然出会った伯爵は、警官隊を配置していたヴィルフォールに追い詰められる…………
 この巌窟王にて一、二を争うほどお気に入りの幕でした。アルベールとユージェニーの間に積み重なっている感情が解かれていく歩みと彼女の演奏が協奏し、厳かな鍵盤の音々と共に流れていく情景は昔の映画を思い出させるようでもあります。奏でられた音楽と共に登場人物たちの表情が映し出されるのは、その曲自体が巌窟王というアニメを代理しているのでは……という感覚にすら陥りそうになるほどです。彼ら彼女らの横顔が、後ろ姿が、背景が、暗い星々が、蠢く男たちの群れが、何かしらの《想い》に何かを載せているようにも、感覚同士を強く編まれた糸で結びあわせているようにも思えます。その後、少年と少女が昔日を思い出しながら、のんきなやり方でそれを踏襲する情景も素敵です。その歩き方はより力強く、より細かく、より繊細に。妖精の辿った道のようにも、雪解けの跡のようにも。
 切り方も素敵でした。まさしく活劇。あとユージェニーかーわーいーいー!

巌窟王 Blu-ray BOX

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