がらくたマガジン

小説を書いたり、読んだり、勉強したりするブログです。執筆者紹介  (復)=復路鵜執筆  (K)=春日 姫宮執筆

メルキオールの惨劇(平山夢明)


 既に一度読了した小説ではありますが、中身があまりにも後々まで残り続ける代物であるため再読してしまいました。
 粗筋:人の不幸をコレクションする男の依頼を受けた「俺」が自分の子供の首を切断した女の調査に赴き、彼女の家族の異常さに巻き込まれていく(本編粗筋より抜粋)。
 一言で言うなら相変わらずな内容ですね。
 設定もストーリーも躊躇なくとんでもない領域に踏み込んで行くために、うわちょっとやめてタイムタイムすいません待ってくださいお願いとか言いたくなるような代物が満載ですが、同時に文章自体にも注目してほしいと考えます。磨きぬいた陶器のように舌を巻くほどの表現や描写(主にグロテスク方面)が次々に飛び出し、また良い加減に外道で異常な主人公の視点から追う物語はまさに圧倒。そして多方面の事象から《殺人》や《猟奇》について言及されており、ホラー小説に関心のある方には是非とも読んで頂きたい代物と成っています。作品の風景が合わない人にとっては汚い死骸でも見たような印象しか残らないかもしれませんが、合う人にとってはとてつもない破壊力で突き刺さってくることでしょう。主に私。
 ジャンルとしては真っ向勝負のホラーというより、主人公の語り口があまりに淡々としているためにスプラッタ+ブラックコメディのように感じられることと思います。というか作品中で良識的な人が一割ぐらいしかいないので(それでもいるだけ幸運なのでしょうが)、主に鬼畜と阿呆が織り成す人非人オーケストラが演奏されています。時折感傷的な間奏が小刻みに挿入されていますが、それもまた作品の良さを増幅させていると言えるでしょう。
 迂闊に開くとひっくりかえりそうになるほど衝撃的な作品…………なんですが、一人称がたまに崩れていたり最終的な結末が破綻しているように見受けられたり、勢いを重視しているためなのか作品内の出来事の理由付けなどにおいて矛盾が生じているように見えるのがとても残念でした。私が購入したのは三版ですが、校正が悪いのか著者がボイコットしてるのかどうしたことなのか。
 そういえば近いうちにこの作者がwebマガジン《ポプラビーチ》内で手がけた小説作品《ダイナー》が発売されるそうです。楽しみ。