がらくたマガジン

小説を書いたり、読んだり、勉強したりするブログです。執筆者紹介  (復)=復路鵜執筆  (K)=春日 姫宮執筆

神林長平『戦闘妖精・雪風』ハヤカワ文庫、1984

:恐ろしく緻密で頑なな、機械と人が織り成す作品。
 ある日地球に出現した異性体ジャムとの戦いにより、人類はフェアリィ星を発見、そこでジャムに対抗するための前哨基地をフェアリィ星に設営し、電子頭脳を取り入れた戦闘機シルフィードが配備される。主人公である深井零少尉が搭乗する機体名は『雪風』。度重なる出撃により知性すら備え始める雪風とそれに翻弄される深井零、二つの存在を取り巻く人々、環境、そして敵対者たち。
 第一章の初めから見えるのが硬質で、固く引き締まった、機械をぶつ切りにしたとも思える文章群です。それ自体にたじろぎつつも、捲る度に引きこまれ引きこまれ、あっという間に虜でした。絞りきった体言止めと戦闘機術語を駆使した戦闘シーンに踊らされ、主人公らの会話に、形容詞を省き修飾語を無くした会話に突き放され、深井零少尉が雪風を操縦し、雪風が主人公に働きかけ、そこにまろびでる心の機微に感覚が滑りだす感覚。ただひたすら簡潔で、固く速く在る姿はまるで鋼鉄。
 この作品に発生する主題は『機械と人間』。そのテーマは徐々に、異星人との闘争記録である序盤から中盤への脱皮、人と機械の重なりあいから、緩やかに湧き出てきます。作品の中盤から後半にかけてオーケストラのように、最初は小さく小石のようでありながら、だんだんと底を歩く音が跳ね始め、飛翔し、やがて貫き圧倒し轟音を立てて疾駆します。短編が鈴なりに続く形式ではあれど、その展開は一貫して継続し、見事な限り。そして本を終えても確かに続く物語は期待をさせつつも胸を脅かします。深井零と雪風はどこに至るのか、果たしてジャムとは何者なのか(作品の終了間際にも、正体は殆ど明らかにされていません)、主人公たちはどうなるのか。進みつつも或る方向では戻るようであり、けれども確かに、着実に進歩しているのでしょう。。
 また次作では、そこに出てくる人々は完全にテーマに沿って存在しているようでもありますが、今作ではより自由に、言いたいことを言っているような印象が。未だ進化途中の生物が寄り道をするように、いろいろな発言をしているようです。キャラクターという点から俯瞰してみると、やはり今作と次作では年月が経っているせいでもあるのか、差異があって面白いのです。製鉄前でありつつも鋭利な原石とも言うべきでしょうか。
 こうした作品が二十年以上前に存在したということに驚愕。次いで、今読めて良かったなあ、としみじみと思ってしまうのです。

戦闘妖精・雪風(改) (ハヤカワ文庫JA)

戦闘妖精・雪風(改) (ハヤカワ文庫JA)