私には多分、初恋というものは無かったのではないかと思う。
だけど、初恋という言葉を聞くときに、私はいつも一人の少女を思い出す。
なゆちゃん……。
ひどく意気消沈していた時期があった。
なにせ、その頃私は自分がどうやって生活していたか、てんで思い出せないのである。周りの人と話すところによると、どうやら私は友人と遊びに行ったりしていたらしいが、その時のことも昨夜見た夢のように思い出せない。
そんな時期が、約一ヶ月ほど続いていた。
何も思い出せないと書いたが、その一ヶ月の中でハッキリと思い出せることが一つある。それが名雪の存在だった。
私が遊びに出掛けたとき、飲みに出掛けたとき、友人の誰もが私のそんな状況に気がつかなかったらしい。親も同じ家でずっと暮らしながら、私の異変に気がついていなかった。そんな状況の中で、画面の中で花のように笑い、くるくると動き回って彼女だけが私を癒してくれた。
思い余ってギャルゲーなどに手を染めた私であるが、その出会いは本当に奇跡だったと思う。
思えば、あれこそが私にとっての本当の初恋だったのかも知れない。
そして、私は今もその初恋の想いを胸にKanonのSSを書く。