がらくたマガジン

小説を書いたり、読んだり、勉強したりするブログです。執筆者紹介  (復)=復路鵜執筆  (K)=春日 姫宮執筆

平山夢明『GangBang The Chimpanzee』レンザブロー(復)

 集英社web小説、【みごろし】の短編から。
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【GangBang The Chimpanzee】
 獣の絶叫とけだものみたいになった人間のうめき声に怨嗟や不満に爆発的な衝撃。
 品性をかなぐり捨てた挙動から始まる短編は、爆発と爆心地でうろつき回る生物を主題にして開始されます。
 氏の作品には噴火的な暴力やケロイドのような猟奇の他に、人間なんだか人間じゃないんだかよく分からない畜生みたいなニンゲンが出現することに定評がありますが、この作品ではそれらの半畜生たちが大活躍です。小説に出てくるキャラクターというものは大体が概念とその場その場の行動様式の塊のように思われますが、ここに出てくる奴原たちはより一層不潔なキャラクター性を推し進め、もはや人らしく飾ったキャラクターというより、人の服を着せて肌色を塗りたくった泥人形のように見えて、いっそ清々しい感覚があります。捉えようによっては作者の偏見を極端に広げたように見えなくもありませんが、誰の心中にも偏見と差別は山のように積もっているのが常道だと思うので、私には気になりませんでした。
 そしてチンパンジー
 奴は人間社会とそこに住まう半畜生たちが、生病老死を背負い込みながらつくり上げる細々としてくだらない枠組みを、全くの厚顔さで汚していく存在です。
 面白いと思う点は、チンパンジーという存在が文明というものを全く無視して危害を与えてくるのに対して、文明社会の方が何やら難癖をつけて危害の塊を保護しようとする事や、チンパンジー自体が文明の皮を被ることで、単に外界を攻撃する獣というよりも、文明の邪悪さを摂取することでより堕落した生物に変化したように思える点です。
 また、この作品で振るわれる暴力について考えてみましょう。
 ここではチンパンジーによる《GangBang》としか言い様のない暴力が開花しているのですが、他にも社会による柔らかい紐で首を絞めるような暴力が存在しています。チンパンジーが引き裂いたり食いちぎったりするなど、あくまで直接的な手段で襲来するとすれば、社会は主人公であるチンイチに毒の入った目薬を処置させたり、酸素を減らしたりして次第に住みにくくさせたり、生きづらくさせてきます。他の者たちは気づかず、主人公がさながら糞まみれの落とし穴に放り込まれたような惨状となっています。社会による暴力は禍々しくも、あまりに確固とした形を取ってしまっているため、それ自体が生活基盤の下地となる、皿のように見えてきます。皿の形状が刺々しく忌々しくあったとしても、それしか受け皿がない以上、そこに置かれたものを食べざるを得ません。厭な臭いがして黴が生えているのに。
 かくして主人公のチンイチは社会とチンパンジーという、両極の暴力によって踏みにじられていきますが、その様は竜巻にズタズタにされた後にプレス機にかけられていくような様でもあるため、逆に虚しい爽快さすら覚えてくるほどです。一番目にする被害者でありますが、被害者というよりもう被害物としか言いようのない物に変わっていくので、半ば客観視してしまうのでしょう。
 彼の人生を考えてみると、どうも生産や出産より《凄惨》とか《陰惨》が目立って見えてくるわけなんですが、それを考えてみると、人生そのものの意味すら不明瞭になってくるように思われます。