全八作のうちの五〜六作目の感想です。
残り一回の予定です。
『ガラスの盾』
:もうすぐ二十七歳になるが就職できていない男二人は、ほとんどイタズラ半分に入社試験を受けていた。二人はどんな状況でも共に面接を受け、面接をバカにするようにマジックショーや漫才など、面白そうなことをいつまでも続ける。ある日、ゲームテスターの入社試験で忍耐力を試すために糸巻きを解こうとした彼らは無残に失敗し、帰りの電車で意気消沈しながら手遊び程度に糸を解く。そのうち糸の長さが気になった彼らは、直接糸を伸ばしながら電車内を歩くことで長さを測ることにした。
社会的に見ればけっこう悲惨な話ですが、語り口が面白いのでいちいち笑ってしまいますし、二人のお気楽さは乱暴でないトークショーを見ているようで気分が穏やかになっていきます。この二人を端的に表す言葉としては、《僕達の目つきは爆弾より爆竹に近い》でしょうか。どんどん二人を取り巻く状況は変化していくというのに、その変化を重大事や問題として真正面から受け止めるわけではなく、サラッと流し、間違えたらいつでも選択肢の所まで飛んで戻れるだろ、というやや非現実が漂うスタンスにも好感を覚えます。
しかし彼らもずっと子供っぽいわけではありません。身体の容器に充満した彼ら自身が別の何かにすり替わっていき、何かに気づいていく過程も面白く読めました。
青年たちの曖昧な心境が、コミカルな面白さと共にぼんやり追求されていきます。そして全体的な柔らかさの中でスッと入る棘はこちらの眼を覚まさせてくれます。子どもはいつまでも子どもであるわけでなく、徐々に何かに変化し、大人に近いものになっていくのです。
ラストが静かで胸に染み入る逸品。
『僕とB』
:CDショップで働く彼は、万引き事件をきっかけにBと出会った。ギタリストを目指すBに付き合い、彼は昔やっていたギターを再び練習することになる。やがて時間は経ち、Bは立派なギタリストになり、彼は会社が変わった。練習を積んでいた彼は、皮膚がむくんで太陽の下を歩けない、奇妙な病気に罹ってしまう。
ストーリーそのものよりも、僕とBの二人が世界を眺める視点の方が気になりました。ギター、音楽、そこから始まる僕とBの会話。季節が移り変われば人の心情も移り変わっていきますが、彼らのよくわからない縁から始まった絆は特段に変わらず、けれども底深い所では何かが確実に変化してきているのです。僕とBの対話も変わらないようでいながら、何か薄皮らしきものが一枚、また一枚と差し込まれ、二人の世界が濃密になっていきます。とは言え二人のやりとりはさっぱりとしていて相変わらず好みなので、最初の辺りも最後の辺りも好きです。あと、ギターを弾く指にこそ神髄が溜まる、という表現が好きです。
- 作者: キム・ジュンヒョク,波田野節子,吉原育子
- 出版社/メーカー: クオン
- 発売日: 2011/11/15
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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